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- ナノ -
04

雨。

全ての音を掻き消すかのように降り注ぐ雨。地面を叩きつけるそれはもはや狂気に近かった。

そんな中、キバは走っていた。


「くぅん」


キバのパーカーの中で心配そうに鳴く赤丸の声に返事もせず、ただひたすら。ただ、ひたすら。


「キバ、ちょっときなさい」


任務から帰ってきた紅班は、紅が手続きをしている間他愛ない話をしていた。すると紅がキバだけを呼んだ。


「ど、どうしたんだろうね、キバくん」

「……さぁな」


ヒナタは心配気にキバを見つめ、シノはただ静かにその経緯を見ていた。キバの表情は強張り、そしてみるみるうちに青ざめた。

身内になにかあったのだろうか。シノは、ふとそんなことを思い浮かべていた。

キバは険しい顔で飛び出して行った。


「え、き、キバくん?」

「どういうことだ?」


戻ってきた紅にシノは聞いた。ヒナタは飛び出して行った扉を不安気に見つめている。


「あなたたちも知ってるかしら?Family nameFirst nameという下忍の子」

「え、First nameちゃん?」


ヒナタが反応を示した。シノにもその名に覚えはあった。しかし、どうも顔が思い浮かばない。アカデミー時代彼女はいつもフードを深く被り顔を隠していたから。そして、ふと気付く。そういえば、気にもしなかったがキバの隣でよく見かけたな。


「First nameちゃんが、どうかしたんですか?」

「任務で重傷だそうよ」


ヒナタの息を呑む音がした。


「わ、私も」

「やめておけ」

「え」

「必要だったら俺たちにも最初から言ったはずだ。キバにだけ伝えたということは、それなりの理由がある」

「その通りよ。二人はもう、今日は帰って休みなさい。もうすぐ……雨が降るわ」


そう言って窓の外を見つめた紅の瞳には、どんよりとした灰色の空が映っていた。

キバは息も整わないまま病室の扉を勢い良く開けた。中にいた者たちが一斉に振り返る。
そこにはFirst nameと同じ班だった奴らと上忍、そしてFirst nameの両親がいた。


「え、キバ?」


見知った顔のそいつらは何でキバがここに来たか分からないと、困惑した表情をしていた。


「First name」


キバは無意識にFirst nameの名を漏らしていた。肩で息をしたままベッドの傍に立つ。酸素マスクを付けられたFirst nameの顔は蒼く、血の気が失せていた。そっと手を伸ばし、一瞬躊躇い、そして指先がFirst nameの頬に触れた。

冷たい。

雨に打たれて走ってきた自分よりも冷たいそれに頭がおかしくなりそうだった。


「おばさん!First nameは、First nameは!?」

「落ち着け、キバ」


声を上げたキバにFirst nameの母は口元を片手で覆い俯いた。First nameの父がキバを諫める。


「なんだよ、これ……。なんで、なんで、こんなに冷たいんだよ!ふざけんなよ!」

「First nameは死んでない。勝手に殺すな」

「でも!」


呆れたように溜息を零したFirst nameの父に切り替えそうとするが、あの非情なまでも冷静沈着な男であるFirst nameの父の瞳が微かに揺れているのを見て、それ以上何も言うことができなかった。


「くそっ!」


留めようのない怒りにキバの体は震えた。そして、その怒りの矛先はFirst nameの班の奴らに向かった。


「お前ら、何でFirst nameだけがこんな目に遭ってんだよ。お前ら、何してたんだよ!」


鋭い目、剥き出しにした牙。それは、まさに獣のようで、同じ下忍なはずの二人は恐怖に後ずさる。


「お前、上忍だろ?」


キバは次の標的を捕らえた。上忍は飛び掛かってくるキバを避けようとはしなかった。


「上忍のくせに、何で護らねぇんだよ!何でてめぇだけ無事で帰ってきてんだよ!お前が、お前が!」

「良い加減にしろ、キバ!」


キバの声を遮るようにFirst nameの父が怒鳴る。キバの手は緩み、上忍の胸元から離れていく。そして、そのまま両手で顔を覆った。赤丸がそんなキバを慰めるように足に擦り寄る。


「あっ、だって、だって、昨日まで、昨日まで、あんなに暖かかったのに。昨日まで、あんなに近かったのに。あんなに、あんな、に……ッ、う、うぁあああああ!」


咆哮。

それは、雨音さえ消えてしまうほどの哀しい獣の鳴き声だった。

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