03
ふと気が付けば赤丸が側にいなかった。
「おい、キバ。何ボーッとしてんだよー。さっさとボール持って来いよー」
「おー、わりぃわりぃ」
ボールを拾いにきていたことを思い出し友人たちの輪の中に戻るが、赤丸がいないことに胸がもやもやした。
「俺、ちょっと抜けるわ!」
「はぁ?」
一方的にそう告げてキバは嗅覚を研ぎ澄ませた。すぐに赤丸は見つかったが、キバは顔を歪める。何故なら女子たちが集まってきゃぴきゃぴしている近くだったから。
面倒くせぇなと内心毒吐き、フードを深く被り直してポッケに手を突っ込みながら赤丸に近寄った。
「赤丸」
「わん!」
木陰で丸まっていた赤丸はキバの声に耳をピンと立たせ、主人に返事をするように吠えた。
「お前なぁ、こんなところで何してんだよ」
「くぅん」
「たっく」
キバはポッケから片手だけ出し、しゃがみ込んで赤丸の頭を撫でた。
「で、お前は何してんだ?」
「……別に」
赤丸が寄り添っていた人物に言った。気持ち良さそうに目を細める赤丸から視線を離さずに。
「そうかよ」
「うん、そう」
相変わらず素直じゃないFirst nameに俺は呆れ半分慣れ半分で、それ以上追及することはしなかった。
とろんと完全に寝始めた赤丸を両手で抱き上げてそこに腰を下ろす。膝の上に置いた赤丸が良い位置を探して少しもぞもぞ動いた後、規則正しい寝息が聞こえてきた。
「寝ちゃったね、赤丸」
「……あぁ」
フードから微かに見えるFirst nameの瞳は愛おしそうに赤丸を見つめていた。きっと、そんなFirst nameを見つめる俺も同じように愛おし気な瞳をしているに違いない。
そんなアカデミーの昼下がり。
[ 29/141 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]