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08

痛みが消えて次に現れたのは、ふわふわと浮くような快感。それでも拭えきれない罪悪感。嬌声とともに心の中で何度も「ごめんね」って謝った。それを知ってるかのようにサザンカは口付けた。まるで、言わせねぇとでもいうかのように。

まだあの人のこと好きなのかよ。

答えられなかった私にサザンカは全てを悟ってくれた。

清々しいくらいに飛び散る白い紙が、スローモーションのように世界を埋めた。それを視界の端にいれながら私はサザンカに抱き締められていた。


「悪い」

「それは、書類を散らばらせちゃったこと?」

「……それも」


肩口でぼそっと零した言葉に、なんだか可笑しくてクスリと笑った。

あ、久しぶりに笑った気がする。


「もっと早く帰ってくれば良かった」

「長期任務でしょ。仕方が無いよ」

「でも、お前こんなに痩せて……ッ、馬鹿野郎。ちゃんと飯食えって言っただろうが」

「ごめんね」

「これからは俺が作る」

「サザンカが?」

「あぁ、そしたらお前食わずにはいられねぇだろ?」

「酷い奴」

「こんだけ待った男に酷い奴とか言うな」

「ごめん、ね」

「違ぇよ。謝って欲しいんじゃねぇ」

「……ありがとう」

「あぁ」


結局、散らばったままの書類たち。きっとゲンマさんに怒られるなんて思って、でももう振り返らないでただサザンカの広い背中を見つめることにした。


「お前、初めてだったんだな」

「な、にを……」


何度も来たことのあるサザンカの部屋に荒い息遣いが響く。くたりと脱力した私をサザンカは抱き寄せながらそんなことを言った。


「この野郎」

「いてっ!悪い、もうあの人に喰われてるもんだと」

「むぅ!」

「いてぇって!」


憎らしい胸板をペシペシ叩く。


「自分はハジメテじゃないんですね」

「そりゃ、お前、この歳で童貞とか引くだろ」

「む」

「馬鹿。好きな女はガキの頃からお前だけだよ」


サザンカらくない甘い言葉。サザンカらしい直球な言葉。降り注がれた唇に、与えられた温もりに、また泣いた。


「どうしよう、私今すごく幸せ。……ッ、どうしよう、私、今、あんたが愛おしい」

「俺はその何倍もFirst nameが愛おしいよ」


あぁ、馬鹿だ。
あの人は姉ばかり見て私の視線に気付かないなんて嘆いて。でも私もあの人ばかり見て、いつだって隣にいてくれた大切な彼の視線に気付かなかった。

あぁ、良かった。
気付かないまま、逝ってしまわなくて。

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