07
「何、してんの?」
低い声だった。掴んだ手の力はまるで敵に対する掴み方だった。それは、決して姉に対する声でも触れ方でもなかった。
「あ、First name」
「何、してんの?姉さん」
「何って、買い物よ……ッ」
平然を装うように答えは返ってくる。でも、姉の顔は歪んでいた。それはきっと絶体痛みで。
「あはは、駄目じゃん。外になんてでちゃ」
だって、あなたは。
「病弱で健気な姉なんだから」
「ちょっとFirst nameちゃ……」
「黙れよ」
割って入ってこようとした男を人睨み。一般人に忍の睨みは震えるほどだった。だって、その目は殺人鬼の目と同じなのだから。
「First name!私はあなたの、あなたのお人形じゃないの!」
何を言ってんの?
「First nameが私の身体を気遣ってくれるのは嬉しいよ。でも、私だって、私だって、外に出たいの!」
何。え、何?この人何言ってんの?この人、何で泣いてるの?
「First name、そろそろ手」
サザンカの声など耳に入らない。ただ私は目の前の姉を、目の前の泣いている女を、どこの誰だか分からなくて、見つめるしかできなかったから。
「First nameちゃん?なーにしてんの?」
サザンカの声には反応しなかったのに、彼の声には大きすぎるほど反応した私。なんて現金な奴だ。
「カカシ、さん?」
「こぉら、一般人イジメちゃ駄目じゃない」
そっと私の手に重ねられた手が姉の腕から離した。触れられた手が熱を感じた。
「大丈夫?」
熱を持ったそこから、すっと熱が冷めた。そして、氷水に漬けられたぐらいに冷たくなる。
今、私の手に触れていた彼の手が、姉の手に触れている。
「え、あ、はい。大丈夫、です」
「嘘、こんなに赤く腫れちゃんてるじゃないの」
彼を見て頬を桃色に染める、姉。
崩れる音がした。
「病院行こうね」
そう言って姉の手を握った彼は私を見た。
「First nameはあとで話聞くから。覚悟しとくこと」
いつもだったら嬉しいのに。次があることに舞い上がるのに。なのに、次が嬉しくない私は、もう、彼を好きじゃないってこと?
真っ直ぐ、ただ純粋に人を好きだったそこにどろどろとした感情、嫉妬が生まれた。
この瞬間、好きが愛に変わり、愛が憎しみへと導いた。
「はは、あはは」
「First name」
「サザンカ、見て。私の愛する姉と彼が手を繋いでるよ」
「……」
「姉さんは、いつも私のモノを奪うの」
「俺はお前のが良い」
「……当たり前でしょ」
「……だな」
ねぇ、泣きたいのは私なのよ。
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