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09

髭は嫌だと言われ久しぶりにツルツルになった顎がなんだか涼しくて無意識に摩りながら待機所で煙草をふかす。


「おや、サザンカじゃないの。帰ってきてたんだ」

「……どうも」


昨日の今日でまさかこの人に会うとは。ちらりと時計を見ればまだまだ任務まで時間がある。

こんなことなら、もっとあいつといれば良かった。


「First nameには会ったかい?」

「……えぇ」

「昨日、ゲンマが頼んだ書類を廊下に忘れたまま姿をどこかに消したらしいんだ。今頃こってり叱られてるだろうね。」

「……」

「君、何か知ってる?」


それはもはや疑問文ではなかった。サザンカは短くなった煙草を灰皿に押し付けて、ようやく顔を挙げた。


「残念でしたね、カカシさん。あいつはもう俺のだ」

「へぇ、面白いこと言うね」


今更、欲しいと言ってもあんたにだけはやらねぇよ。


「あぁ、もしかして抱いた?」


ぴくりとサザンカの眉が動く。それをカカシは肯定だと取った。


「抱いたら自分のものだなんて、まるでガキの恋愛じゃないか。どうする?僕があの子に好きだって言ったら、あの子きっと僕のものになるよ?」

「あんた、あいつをどれだけ侮辱すれば気が済むんだ?」

「……ッ」


サザンカはカカシの胸ぐらを掴み上げていた。待機所にいた他の忍たちが何事かとざわつきだす。


「あいつはそんな女じゃなねぇよ。あんた、ほんとあいつのこと何も分かってなかったんだな。あいつはいつだって姉貴やあんたや、俺の分まで傷付いてんだ。あいつは、俺に抱かれたあいつはもう俺から逃げられないんだ。俺は、俺は……」


俺は、俺は、それを分かっててあいつを閉じ込めてしまったんだ。


「だったら、幸せにしてあげなきゃね」

「……ッ、あんたに言われなくても分かってる」


サザンカは捨てるように手を離した。


「サザンカ、First nameのことよろしく頼む。これは、一人の男としての頼みだ。泣かせたら許さないよ」

「……うるせぇんだよ」


散々泣かせてきたあんたにだけは言われたくねぇよ。


「サザンカ!この野郎!」

「うわっ!」


誤魔化すように煙草に手を伸ばしたところに、するりと首に何かが巻き付いた。それが腕だと気付いた時には、もう締まっていた。


「ゲンマさんに怒られた!しかも罰としてこーんな分厚い書類整理今日中にやれって!酷くない!?てか、お前のせいだ!手伝え、この野郎!」

「……ッ」

「First name、それじゃあサザンカ喋れないよ」

「あ、ごめん」

「ごほっ!げほっ!……ッ、てめぇらヤル気かこの野郎!」

「きゃあああ!」


まるで無邪気な子供のように待機所を走り回るFirst nameとサザンカ。二人にカカシは穏やかな眼差しを送っていた。

もう、彼女の中に俺はいない、か。


「よう、カカシ。ようやく妹離れできそうか?」

「アスマ。……あぁ、実際、寂しいもんだよ」

「お前も素直じゃねぇからな」


見透かしたようなアスマの言葉にカカシは参ったなと眉を下げて笑う。


「あの子は最初から俺に恋愛感情なんてなかったよ」


初めて会ったあの日、あの子の中で俺は特別な存在になった。でもそれは小さい頃に両親を失い、さらには唯一の姉にも嫌われた、あの子が求めた裏切らない保護者だ。


「最初から、俺はあいつに負けてたんだ」


君が無邪気に笑う度に、俺は泣きたかったんだ。それを君は永遠に知ることはないだろうね。






131102

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