022
あぁ、あぁ、あぁ、何でこんなことになってしまったのだろうか。今更、後悔しても全て遅い。それでも、今会いたくて会いたくて会いたくて寂しさが無情に胸を締め付ける。
「……」
いつからだろうか。家に帰りたくないなんて子どもみたいなこと思い始めたのは。あぁ、そうだ。置いてきぼりにされた日からだ。
無音な家には虚しさしかない。
思い返せば破天荒な両親だった。まだ私が幼い頃からブルマさんの両親に私を預けて何処かへと世話しなく飛び回っていた。
そうだ、知っていたじゃないか。分かっていたじゃないか。私はお荷物だったんだ。私は、私は……。
不意に呼び鈴が鳴った。
ビーデルさんだろうか。彼女のことだ。そろそろ我慢の限界で押し掛けて来てもおかしくない。滅入る気持ちに息を吐いて、そっとドアを開けば……。
「……ッ」
「こんにちは、First nameさん」
愛おしい紫陽花色の髪が柔らかく靡いていた。
「な、んで……」
「謝ろうと思って」
「あやまる?」
何を?貴方が何を謝るって言うの?謝らなきゃいけないのは……でしょ?
「すみませんでした。僕が来たことで貴方とトランクスを喧嘩させてしまって」
心地良い声。彼も大人になったらこんなに良い声で話すのかな?この声で私の名前を呼んでくれるのかな?
あぁ、でも、やっぱり。
「あなたはトランクスくんじゃないのね」
「……僕は、僕ですよ。First nameさん」
こんなにも似ているのに、全然違うんだ。私の大好きな彼は……。
「この前は取り乱してしまってごめんなさい」
「いえ、あれは僕が」
「ううん、きっと貴方を傷付けた。あなただってトランクスであることには違いないのに」
ただ私の好きなトランクスくんじゃないだけで。
「First nameさん、僕ずっとあなたに会ってみたかったです」
「え?」
「僕の世界には貴方はいなかったから」
「……」
「この世界のトランクスが羨ましい。貴方にこんなにも愛されていて」
「……ッ、でも、でも、もう遅い。嫌いだって言われちゃった……ッ、きら、いって…」
ぼろぼろ溢れ出す涙。言葉に出してしまったらそれはやっぱり事実だと突き付けられて抑えることなんてできない。だって、私だってまだ子どもだ。
「ひっく、やだ、嫌いなんて、言わなっ、ないで、よ!うっ、うっ、トラン、クスくん!トランクスくん!」
「……First nameさん」
泣きじゃくる私を未来のトランクスは慰めるようにそっと抱き締めた。
この温もりが彼だったら良かったのになんて思ってる私はやっぱり酷い奴だ。
「あら、トランクスどこ行ってたの?」
「……べつに」
すれ違った時間を戻すことも修復することも今の私たちには難しいことで、互いが互いを意識するも無慈悲なクロノスは時間だけを奪い去った。
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