05
両手で抱えた報告書は高く積まれ、ぎりぎり目が見えるほどだ。足元は見えないが、そこは忍。躓くことなく……。
「あ」
「え?」
猿も木から滑れば、忍も躓く。何に躓いたかなど分からず揺れる報告書のタワーに面倒臭いことになるなと諦めたれば、不意に体が止まった。
「First name、久しぶりだな」
「サザンカ、あんた何その髭。おっさんになったね」
支えてくれた盟友に対しての第一声。サザンカのこめかみがひくつくのも当たり前だ。
「お前、落とすぞ」
「げ、それは勘弁」
どうにか態勢を整えた私は、サザンカに半分持たせてまた歩き出す。
「それにしても凄い量だな」
「ゲンマさんの下僕だから」
「下僕?」
「そこは突っ込まないで」
首を傾げるサザンカにピシャリと言う。
「なぁ」
「ん?」
「お前、まだあの人のこと好きなのかよ」
「……」
「First name?」
否定も肯定もできない今。私はあの頃と何が違うのだろう。私は、どこで、何を、間違ったの?
愛おしいと心は咽び泣いているのに。
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