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03

貰ったそれを握り締めて私は誰よりも早くアカデミーを飛び出した。向かうは自分の家。皆は母や父がアカデミーに迎えに来て褒めてくれてたようだけど、私はそうはいかないから。


「ただいま!」


玄関を勢い良く開けて、靴を脱ぎ捨てて転がるようように家に上がった。


「お姉ちゃん!見て!」

「First name、靴、揃えた?」

「え、あ、でも、そんなことより!ほら!」


ジャジャーンと掲げた額当て。そこには木の葉のマークが刻まれていた。


「First name」


しかし、姉はニコリとも笑わず私の名をいつもみたいに紡いだ。その意味を私は嫌というほど知っている。


「……」

「First name」

「……はい」


私は力なく額当てを持っていた手を下げて、姉が寝ている部屋に背を向けた。

父と母を早くに亡くした私にとって姉はただの姉ではなく母でもあり、父でもあった。そんな姉は私には厳しかった。

幼い頃から体の弱い姉は運動は以ての外、家の中での生活が中心となっていた。最近では床に臥せていることも少なくはない。

いつからか笑わなくなった姉に少しでも笑って欲しくて頑張って頑張って頑張って、頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って、忍になったのに。


「……ッ」


私は姉の部屋から逃げるように玄関へと向かった。揃える筈の靴にもう一度足を引っ掛け「いってきます」の言葉などなく家を飛び出した。

そう、姉は昔から私のことが嫌いだった。
だから、姉は私から何もかも奪う。
私の愛したあの人の愛さえも。

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