憂いの国王・2


「よくわかりました。あと、もう一つだけ訊いてもいいですか?」

「どうぞ」

「ありがとうございます。俺が陛下の養子になったら、学園は辞めることになるんでしょうか?」

 王位継承権は俺には発生しないが、名ばかりとはいえ王族の一員となるわけだ。当然、王族としての教育を受けなければならないだろう。学園との両立ができればいいのだが……。

「学園には通ってもらって構わないよ。あそこが嫌だというのなら、別の教育機関を紹介しよう。それから君には専属の講師をつけることになる。王族としての教養は当然として、諸外国との関係も頭に入れておいてもらえるとありがたいかな。おそらく、成人を待たずに、政治的な場に出てもらうことになるだろうから」

 ……なんか、とんでもないことになりそうだ。デュラクルと契約しただけなのに、それに付随する物事の規模が、自分で考えていたよりも遙かに大きくなりつつある。

 なにも聞かなかったことにして、デュラクルと二人、静かな場所で暮らしたい。望めば叶えられるのだろうけど……。

 俺は内心で溜息をついた。リアス王子のことも心配だし、なによりもこの国が精霊信仰に傾いていくのは見たくない。

「離宮に君の部屋を用意するので、長期休暇の際はそこを利用するといい。リアスも喜ぶよ」

「むしろ離宮から学園に通えばいいだろ。寮の部屋は狭いうえに寒い。レインが風邪を引く」

 今まで黙っていたデュラクルが、いきなり口を挟んできた。孤児院にいた時は、もっと狭い部屋を四人で使っていたので、むしろ俺的には広いくらいなんだけど。

「それはいけないね。今日中に移れるよう、すぐ手配しよう。学園にも話は通しておくから、安心して引っ越しておいで」

「きょ、今日!?」

「ああ、荷物をまとめるのに人手が必要かな?」

 俺は慌てて頭を横に振った。まとめるほどの荷物はない。流れ的に、もう養子になることで決定してる気がするんだけど。別にいいんだけどさ……。選択権は俺にあるって言ってなかったか?

「すまないが、このあと別の用事が入っていてね。部屋はいつ引っ越してもいいように準備しておくよ。場所はわかるね?」

「ああ」

「では、色よい返事を期待しているよ」

 そう言い残すと、フォルシェル国王は足早に部屋を出て行ってしまった。忙しいところを、きっとむりに時間を取ってくれたんだろうな。

 室内には俺とデュラクルの二人だけ。行儀が悪いとは思ったが、ふかふかの長椅子にぐったりと体を預けた。

 考えなければいけないことはたくさんあるが、今はあと回しにさせてもらおう。一度に大量の情報を詰め込まれたお陰で、頭が爆発してしまいそうだ。

「……でも、意外だったなぁ」

「なんだ?」

「フォルシェル国王。あの人があそこまで精霊信仰を危険視してるとは思わなかった」

 もちろんリアス王子のこともあるが、精霊と契約している者は、往々にして精霊信仰に寛容だ。特別扱いされることを厭う人間は少ないのである。

 さすがに行き過ぎた精霊信仰を掲げるレガート公国には眉を寄せる者も多いが、フォルシェル国王には精霊信仰を憎んでいるような苛烈さがあった。

「そうさせるだけの事情があるからな」

「事情?」

「あの男はもともと皇太子じゃねぇんだよ」

「お兄さんがいたってこと?」

「ああ。優秀な人間で、下級精霊と契約していたと聞いている。同腹の兄弟で、仲もよかったそうだ。だが、あの男が兄貴と契約した半年後に、自殺した」

 自殺。その言葉が、ぐるぐると脳裏を回る。自殺の理由なんて、考えるまでもない。

 下級精霊としか契約できなかった自分に対し、精霊王と契約してみせた弟。精霊王と契約した王子を次期国王に――その声は、次第に皇太子の心を蝕んでいったに違いない。

 そうか。だからフォルシェル国王は、あそこまで精霊信仰を憎むのか。

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