小さな王子・1
「まずは、私の息子を紹介したい。リアスをここに」
確かフォルシェル国王には息子が一人いるんだっけ。父親があまりにも偉大すぎるせいか、子息にかんする噂話はまったくといっていいほど流れていない。
フォルシェル国王が扉に向かって声をかけると、「承りました」と短い返事があった。しばらくすると、老年の男性が一人の少年を伴ってくる。
年齢は八歳くらいだろうか。黒い髪に緑の瞳。そして、幼いながらにも明らかに整った容姿。目の前の男性をそっくりそのまま幼くした姿に、親子関係は疑うべくもないだろう。
緊張したように口を引き結んではいるものの、その瞳は好奇に彩られている。デュラクルとは顔見知りなのか、一瞬、嬉しそうな表情が幼い顔に過った。
「リアス。お客様だ、ご挨拶しなさい」
「はい。今日はようこそおいでくださいました。僕はリアス・エル・フォルシェル。フォルシェル国の第一王子です。以後、お見知りおきください」
緊張はしているものの、澱みのない自己紹介だった。きっと、一日の内に何回も同じ口上を述べているんだろうな。
俺も名乗った方がいいのかな、と思い、確認するようにデュラクルを見上げる。
「……こいつは、俺の契約者だ」
「名乗るくらいさせてもいいんじゃないかい?」
「じゃあ、お前があとで教えとけ」
俺も名乗るくらいはいいんじゃないかなと思うけど、デュラクルはそれさえも嫌なようだ。適当にあだ名とか考えた方がいいのかな……。
一方、リアス王子はデュラクルの言葉に、驚いたように目を瞠った。その視線が俺へとずれる。やがて、うっすらと頬が色づいたかと思うと、リアス王子は興奮気味に口を開いた。
「すごい……すごいです!」
「リアス」
父親の咎め声に、リアス王子ははっとし慌てて前のめりになっていた姿勢を正した。興奮してしまった自分を恥じるように、「も、申しわけありません」と謝罪が返ってくる。
「彼には私の養子になってもらおうと思っている」
「えっ!?」
さすがにこれには、せっかく取り戻した平常心も崩れ去ってしまったようだ。我に返ったリアス王子は、感情を表に出さないように努めようとするものの、隠しきれない好奇心が全身から滲み出している。
「じゃあ、僕の兄様に……」
「もっとも、まだ申し入れをしている段階でね。彼の返答待ちなんだよ」
きらきらと輝いていた瞳が、急に色を失ってしまった。正直、拒否されるだろうと思っていたのだが、これはどういうことなのか?普通、義理とはいえいきなり兄ができたら困惑するか、反発するかだよな?
それとも、俺がデュラクルの契約者だからだろうか――そこまで考えて、さすかに自己嫌悪に陥った。こんな小さな子供に、俺はなにを思っているんだ。
反省していると、リアス王子が潤んだ眼差しでじっとこちらを見つめていることに気付いた。
「……僕の兄様になってくれないんですか?」
「うっ……」
これは卑怯だ。眉尻を下げ、悲しげにこちらを見つめる姿はどうしようもなく庇護欲を煽ってくる。あ、デュラクルが舌打ちした。
庇護欲とはいえ、リアス王子に向けた感情が気に食わないのだろう。そんなの俺だって、デュラクルとフォルシェル国王の関係にちょっとイラッとさせられたのだから、おあいこだ。
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