独占欲・2


「契約主君はお馬鹿だね」

「ああ。契約主殿は、己の価値というものを理解していないらしい」

 頭の上に疑問符をつけながら、俺は二柱を見た。彼らは、呆れたような、でも、どこか愛おしげな眼差しを俺に向ける。

「殿下が契約しなかったら、俺が真っ先に契約してたくらいには魅力的だよ」

「同感だ」

 ほんと残念だよ、とユミアさんが溜息をつく。

「居心地がいいんだよねぇ。他所様の契約主なんだけど。殿下に頼まれなくても、傍にはいたいなぁ」

「下級の者たちには毒だがな。これを心地よいと感じるには、それなりの強者でなければならんだろう」

「おやおや、ランウェルったら自慢しちゃってー」

「事実を言ったまでだ」

 俺は二柱のやりとりに唖然とした。それから、じわりじわりと嬉しさが広がる。求められるというのは、これほどに心地いい。

 仄暗い優越感。自分でも嫌になる。嬉しいと感じることに、罪悪感がつき纏う。面倒臭い性格だよな、ほんと。

 浮上したり落ち込んだりしていると、二柱がこっちをじっと見ていることに気付いた。

「……あの、どうしたんですか?」

 すると、ユミアさんがいきなり俺をぎゅっと抱き締めて、頭に頬摺りする。

「いいなぁ。やっぱり、俺が契約したかったなぁ」

「ユミアさん?」

「気にするな。ユミアは契約主殿から漂う魔力に酔っているだけだ」

 え、でも、今まではなんともなかったよな。急に酔ったりするものなのだろうか。困惑していると、ランウェルさんが説明してくれる。

「感情は魔力に乗りやすい。負の感情然り、喜びの感情然り。理由はわからないが、我々精霊は感情の乗った魔力に弱い。私はまだ平気だが、ユミアには少々誘惑が強すぎたようだ」

「そうですか……」

「嫌でなければ、好きにさせてやってくれ」

 まあ、嫌ではない、かな?頭に頬摺りするだけだし、性的な触り方でもない。弟妹を猫可愛がりする兄、もしくは小動物を愛でるような感じだ。

 可愛い、可愛い、と言いながらユミアさんは頬摺りし続ける。頭がはげたらどうしよう。

 そのまま、ぼやー、としていると、いきなり二柱の雰囲気が変わった。ユミアさんも慌てたように俺から離れ、その場に跪いて頭を垂れる。

「「――お帰りなさいませ、殿下」」

 そこには、相変わらず威圧感たっぷりのおっさんがいた。意外と早いお帰りなんですね。まだ、一日も経ってませんよ。

「世話を掛けたな。もう帰っていいぞ」

「えー、もうちょっとくらい……」

「帰るぞ」

 未練たらたらのユミアさんを引き摺って、ランウェルさんが姿を消す。精霊界に帰ったのだろうが、いつ見ても不思議だ。精霊界への扉って、そんなに簡単に開けられるものなのか?

「お帰りなさい」

「ああ。なにもなかったか?」

「この短時間でなにかあるわけないじゃないですか」

 なんというか、過保護だよな、この精霊。部下を二柱もつけたのに、それでも心配とか。俺ってそんなに頼りないのかな。

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