独占欲・1
先日、契約したばかりの精霊さんがお兄さんから呼び出しを受けたとかで、精霊界に帰ってしまった。
すぐに戻ってくると言ってたけど、俺が不安げな顔をしていたからだろう。代わりとばかりに部下だという精霊さん二柱(精霊は一柱、二柱と数える)を呼び寄せてくれた。
「あ、これ美味しい〜」
俺の部屋で昼食代わりの野菜炒めを頬張っているのは、背中まで伸びた金髪がきらきらと目に眩しい美形の精霊さんだ。
黒い騎士っぽい服を着て、マントを羽織っている。性格は明るく、にこにこと優しげな笑みが浮かぶ。名前はユミアさん。
「精霊にも味覚ってあるんですか?」
「ある。ただし、食べても魔力に変換はできないから、無用の長物でもあるがな」
口を野菜炒めでいっぱいにしているユミアさんの代わりに答えてくれたのは、ランウェルさんだ。
背中まで伸びた真っ赤な髪をポニーテールに結って、額には黒の額飾りを嵌めている。服装はユミアさんと同じ。
ユミアさんが中性的な美人なのに対し、ランウェルさんは男前系の美形さんだ。性格も男前で、親切。精霊界のことも面倒くさがらずに教えてくれる。外見年齢はどちらも二十代半ばくらいかな。
「精霊の主食ってなんですか?」
「精霊界では周囲に漂っている精魔力がそれに当たる。人間界では、契約者の魔力だな」
「え、じゃあランウェルさんたちはお腹が空くんじゃないですか?」
「力を使わない限り、一ヶ月は持つ。戦闘で使い切ってしまったら、ユミアと交代で精霊界に戻って補給するつもりだ」
「いや、力を使うようなことにはならないと思いますが……」
「そうなのか?殿下直々に契約者殿の護衛を頼まれたので、てっきり何者かに命を狙われているものだとばかり思っていたが」
「狙われてはないですよ……」
嫌がらせは受けてるけど。今日は休日なので、部屋で大人しくしている。外に出たら、嫌がらせの嵐だ。
でも、精霊と契約したから、それも止むのかな?契約主が攻撃を受けた場合、精霊は問答無用で反撃するみたいだし。
「その割には、怪我をしているようだが」
「そうだよー。だから、殿下も心配して俺たちをつけたんだと思ったんだけど」
「あー……」
大怪我というほどではないが、俺の体は痣だらけだ。養護教諭ももれなく親友の信奉者なので、手当を頼み辛く、そのせいで治りが遅いということもある。動きでばれたのかな。
「すまないな。我々は闇の精霊。治癒には特化していない」
「光の精霊でも連れて来よっか?」
「私は嫌だな。奴らは傲慢すぎる」
「えー、その高い鼻っ柱をへし折っるのが楽しいんだよー」
……なんか、話それてないか?というか、光の精霊って傲慢なのか。慈愛深い、っていうのが人間から見た印象なんだけど。
ああ、でも慈愛深かったら、契約主の親友が暴力を振るわれているのに、見て見ぬ振りはしないか。
二柱の会話から推測できるように、属性が違うと仲もよくないらしい。顔を合わせる度に喧嘩するというわけではなく、単純に関心が薄いだけらしいが。
「俺はいいですよ。我慢できます」
「男の子だねー」
「ああ。偉いぞ」
双方から伸びてきた手に頭を撫でられる。なんか嬉しい。
「……すみません。いくら命令でも、俺の護衛なんて。暇ですよね」
つい、照れ隠しで言わなくてもいいことを言ってしまう。そのあとで、俺はずーんと落ち込んだ。
そうだ。彼らは命令だから、俺の傍にいる。わかりきったことじゃないか。なにを期待してたんだか、と俺は自嘲的に笑った。
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