異世界からの来訪者


 お弁当の予定を変更して、俺たちは屋敷でお昼ごはんを食べてからじいちゃんのところにやってきた。

 使用人さんが一人、おつきとして同行してきたけど、のどが渇いたから飲み物がほしいとわがままを言えば、「では、私が戻るまで長様のもとから離れないでくださいね」と念を押して屋敷に戻っていった。

 お弁当だと、もれなく飲み物もついてきちゃうからね。会話を途中で止められる可能性を考慮しての作戦だ。もちろん、発案はペレル兄ちゃんである。

 じいちゃんのいる屋敷にはキッチンはないので、しばらくは戻ってくる心配もないだろう。これで心置きなくじいちゃんに相談できる。

「あのな、じい様。ペレルがちょっとおかしい……変……うーん、なんて言えばいいんだろ。なんかモヤモヤするみたいなんだ。理由とか、わかんねぇ?」

 俺たちを代表して、長男のブラウ兄ちゃんが身振り手振りを交えじいちゃんに訊ねる。水晶のなかで横たわっているじいちゃんは、『ふむ』とつぶやいて、たぶんだけどペレル兄ちゃんを“視た”。

『……お前たちはたしか、王都に行っておったな』

「はい。騎士団の対抗試合が行われたので、その応援に」

『優勝したのは黒魔族の者だったと聞いているが、間違いないか?』

「クルス・ディアン団長です。そして、ヴァイスリーリエの婚約者でもあります」

 おう、なんか、他の人の口から“婚約者”って言われると、めっちゃ恥ずかしいんですけど。まあ、まだ俺が幼いから正式なものじゃないけどさ。

 すると、ペレル兄ちゃんの説明に、なぜかじいちゃんは黙ってしまった。そういえば、じいちゃんには団長さんと俺の関係を言ってなかったような気がする。

『……そうか。ペレルクルークは聞いてはならぬことを聞いてしまったのだろう。それで記憶を封じられた。これはおそらく、蝙蝠族の仕業だな。しかし、予想外にペレルクルークの精神的抵抗が強く、暗示は完全ではなかった。それが違和感として、出てしまっているのだろう』

「……もしかして僕は、王立図書館で……」

 そう言えば、ペレル兄ちゃんは王立図書館での記憶がないと言っていた。興奮しすぎて気絶してしまったのだと、同行していたシルトパットさんが言っていたらしいけれど、ペレル兄ちゃん自身もその発言を怪しんでいたっけ。

「じゃあ、ペレル兄ちゃんは――」

「知ったのだと思います。国王の秘密を。それで、記憶を封じられた。長様。記憶の封印を解くことはできないのでしょうか?」

『暗示を解くこと自体は造作もないことだ。わしはこの体となってしまってから、ずいぶんと精神が発達してしまっての。完全に封じられていたら手も足もでなかったが、わずかでも綻びがあればそこから暗示を解くことができる。けれど、必要があったからこそ、そなたは記憶を封じられたのだ。それでも、思いだしたいというのか?』

「……わかりません。でも、もう一人の僕が叫ぶんです。はやく思いだせ。取り返しがつかなくなる前に、と」

『そうか。ならば、そなたの望み通り暗示を解こう』

 じいちゃんの前にキラキラとしたものが生まれた。それはふわふわと宙を飛んで、ペレル兄ちゃんの体を包み込んだ。パチン、となにかが弾けるような音がしたかと思うと、ペレル兄ちゃんがいきなり頭を抱え込む。

「ペレル兄ちゃん!?」

「「ペレル!」」

 なにかに耐えるように蹲っていたペレル兄ちゃんだったが、荒い息を吐きながらゆっくりと顔をあげた。そして、ブラウ兄ちゃん、フェル兄ちゃんと確認するように顔を見て、その視線が最後に俺の前で止まる。

「あ……そんな……僕は……」

「ペレル兄ちゃん、大丈夫?どっか痛いの?」

 目に涙をためたペレル兄ちゃんは、力なく頭を振った。唇を震わせ、「嫌だ……僕は、ヴァイスを……」とつぶやく。

 それからまるで殻を閉ざした貝のように、黙り込んでしまった。俺やブラウ兄ちゃん、フェル兄ちゃんが途方にくれるなか、じいちゃんの朗らかな声が響く。

『まあ、言えぬだろうな。その事実を知れば、普通の子供ならば悲しみのあまり心が死んでしまう。じゃが、ペレルクルークよ。心配はいらん。ヴァイスリーリエは他の子供たちとは違うのだ。だからこそ、わしはそなたにかけられた暗示を解いた』

「……どういうことですか?」

 震える声で、ペレル兄ちゃんが訊ねる。ふと、じいちゃんの意識が俺に向けられた気がした。

『異世界からの来訪者よ。そうであろう?』

 うっそ、まさかバレてたんですか?


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