団体戦・3
続いて、一回戦二組目が行われた。
対するのは、天獅子騎士団と花燕騎士団だ。結果は天獅子騎士団の圧勝。これは完全に対戦相手が悪かったと思う。
そもそも花燕騎士団は魔獣討伐の際、各騎士団の間を伝令として飛び回るのが主な役目で、戦闘よりもスピードに特化した騎士団なのだ。
それでも、天獅子騎士団以外であれば、持ち前のスピードを生かし、勝利をもぎ取ることも可能らしい。意外なことに赤熊騎士団は花燕騎士団との戦闘が大の苦手で、スピードで翻弄され気づいたら負けているなんてことも珍しくないそうだ。
しかし、今回の相手は同じように空を飛び回る天獅子騎士団。スピードこそ勝るものの、その差は他の騎士団ほど開きはない。結局、力で押し負け、花燕騎士団は一回戦で敗退した。
一回戦三組目は黒魔騎士団と地猿騎士団である。地猿騎士団は、あのチャラっぽい兄ちゃん――メテオールさんが団長を務める騎士団だ。
同じ部屋にいた黒魔騎士団の人たちが、なぜか悲壮な決意を滲ませながら退出していった。俺も精一杯応援するからね。
「地猿騎士団の人たちは、どんな戦い方をするの?」
「障害物を巧みに利用して戦うことを得意としている。魔獣戦では、相手を森に引っ張り込んで殲滅していた」
「じゃあ、なにもない場所での戦いは不利なんじゃない?」
「そうでもないぞ」
地猿騎士団には奥の手でもあるのだろうか。しかし、闘技場をいくら眺めても、障害物になりそうなものはなにもない。まさか巨大な岩をえっちらおっちらと運んでくるんじゃないだろうな?
「いまは確かに、なにもない。けれど、彼らは非常によく頭が回る。それにスピードもある。婚約者殿、彼らの動きをよく見ているといい」
開戦の合図が鳴った直後、両騎士団ともに真っ先に動き出す。地猿騎士団の動きに注目していると、俺はあることに気づいた。
動きに統一性がないのだ。今までの騎士団は部隊長がなんらかの指示を出して、それでみんな動いていたんだけど、地猿騎士団は個々で動いている気がする。指示を出すはずの部隊長が見当たらない。
「それに……黒魔騎士団の人たちを障害物にしてる?」
相手の陣地に入り込んだ地猿騎士団の人たちが、黒魔騎士団の人たち自身を障害物に見立てて、隙間を自由自在に飛び回りながら攻撃を仕掛けている。
黒魔騎士団も応戦してはいるんだけど、目の前の一人に集中していると、背後から別の誰かの攻撃を受けるといった具合に、なかなか攻勢に移れないでいる。
「団長さん、どうしよう。このままじゃ、みんなが負けちゃうよ。あ、そうだ。応援。応援しなきゃ!」
俺は会場の歓声にも負けないように声をはりあげ、黒魔騎士団を応援した。団長さんも応援すればいいのに、俺の頭を撫でてばかりいる。このままじゃ、本当に負けちゃうのに。
「もう、団長さん。みんなが負けちゃったらどうするの」
「怒った顔の婚約者殿も可愛らしいな」
「団長さん!」
「大丈夫だ。まだ、あまり脱落していないだろう?」
「え……。あ、本当だ」
「地猿騎士団には、弱点がある。早さに目が慣れてしまえば、こちらのものだ」
団長さんの言う通り、黒魔騎士団のみんながじょじょに威勢を取り戻しつつある。さらに二人一組になると、闘技場全体に散らばりはじめた。
どの方向からの攻撃にも対応できるように背中合わせに陣取る。そうなってくると、相手の体を障害物にして別の誰かを攻撃するという戦法は封じられてしまう。
もしも地猿騎士団が数で勝っているのなら、各個撃破できる絶好のチャンスだ。しかし、人数は黒魔騎士団が少し減った程度。
個々の能力は黒魔騎士団が勝るようで、地猿騎士団はじょじょに数を減らしていった。この展開は、一回戦一組目の赤熊騎士団と水竜騎士団の戦いに似ている気がする。
「地猿騎士団が、己の兵力を減らす覚悟で向かって来たのなら危なかったな。個々の判断に頼るあまり、命令を下す部隊長に重きを置かなかったことが仇となったわけだ」
「あ、みんなが勝ったみたい。よかったー」
黒魔騎士団の勝利がコールされた。黒魔騎士団のみんなが肩を抱き合って勝利を喜んでいる。
反対に、地猿騎士団のみんなは頭を抱えて地面に突っ伏していた。あれかなー。あっちのみんなも、絶対に勝つようにメテオールさんから厳命されてたのかな。
「これで二回戦に勧めるね。あ、そうだ。騎士団はもう一つ残ってるけど、不戦勝なの?」
「白馬騎士団は前回の団体戦で優勝しているから、二回戦からの参加になる」
なるほど、シード枠ということか。白馬騎士団で思い出したけど、ペレル兄ちゃんは無事に王立図書館に辿り着き、目当ての書物を見つけられただろうか?
「二回戦の前に昼食だな。屋台が出ているから、なにか買って来させよう」
「屋台!俺、屋台を見に行きたい。団長さん、連れてって!」
ここで落ち着いて食べるのもいいけど、やっぱり屋台を練り歩きながら好きなものを選んで食べるのもいいよね。
というか、この世界で屋台を見たのははじめてだから、ぜひ屋台巡りをしてみたい。
俺のお願いに団長さんがノーと言うわけもなく。団長さんに抱っこされるという条件で、俺ははじめての屋台巡りに繰り出したのだった。
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