団体戦・2


 闘技場は広かった。そりゃあもう、広かった。団体戦ができるくらいの広さがないと駄目なわけだから、おのずと敷地面積も大きくなるよね。

 闘技場は真上から見ると円形になっていて、観客席は二階から上に設置されている。また、闘技場と観客席の間には安全対策として、幅四メートル、深さ一メートルほどの溝が掘られてあって、興奮した観客が落下しても大丈夫なようにマッドが敷かれていた。

 俺たちがいるのは、分厚い壁で仕切られた個室(でも教室二つ分くらいはある)だった。天井は吹き抜けだけど、日差しよけの幕が張られていて、風が心地いい。壁のおかげか、観客席の声も思ったほど聞こえない。

 ちなみに俺は最前列に座った団長さんの膝に人型で座っている。背が低いから、椅子に座るとなんにも見えないからね。まあ、定位置と言えば定位置なんだけど。そんで、三列目から黒魔騎士団の皆さんがずらーっと並んでいる。

 面白いのは、みんな絶対に俺と目を合わせないようにしていることだ。「婚約者殿を視界に収めるな」という団長さんの大人げない命令を、みんな忠実に守っているのだ。別段、見られるくらいなんともないのにね。

 俺もお腹をたくましい腕でがっつりホールドされているため、うしろを振り向けない。部屋に入ったあと、黒魔騎士団のみんなに挨拶したっきりだ。

「ほら、婚約者殿。そろそろはじまるぞ」

 つい先ほど国王様による挨拶が終わって、いよいよ団体戦がはじまろうとしている。初戦は赤熊騎士団と水竜騎士団の対決である。二チーム合わせて総勢百人の騎士たちが闘技場に散らばっているため、なかなか壮観な光景だ。

 赤熊騎士団の騎士さんたちは、みんな剣ではなく棍棒を持っている。怪力自慢ばかりなので、生半可な剣だと折れてしまうらしい。なので、赤熊騎士団は普段から剣ではなく棍棒を武器としているそうだ。

 ちなみに対抗戦で使用する剣は、大怪我をしないようにすべて刃が潰されているんだって。赤熊騎士団の武器である棍棒も、普段の物よりだいぶ軽量化されているらしい。

「ねぇ、団長さん。赤熊騎士団はわかるけど、水竜騎士団ってどんな種族がいるの?」

 赤熊騎士団は地上戦を得意として、なおかつ力持ちな種族が所属している。でも、水竜騎士団は知ってる人がいないこともあって、俺にとっては未知の騎士団だ。

「水辺に住んでいる種族が主だな。水中戦を得意としている者が多い」

「え、じゃあ、地上戦は不利なんじゃないの?」

「そうとも限らない。彼らは水を操る術を持っているからな」

 団長さんがそう言ったと同時に、水竜騎士団から大量の水が溢れた。地面が水浸しになると思いきや、大量の水は空中を流れるように浮遊している。水流騎士団の人たちはその流れに乗って、赤熊騎士団に襲いかかった。

「すごい!」

「水流騎士団は水中に生息する魔獣を一手に請け負っているからな。個々の戦力は、騎士団の中でも上位に入るだろう」

「そうなんだ。本当に水の中を泳ぎ回ってるみたいに見えるね」

 戦っているにもかかわらず、空中を流れる水に乗って縦横無尽に動き回る水竜騎士団の姿は、とてもきれいだ。水が日の光に反射して、キラキラと輝いているのがまた美しい。観客も大興奮で、歓声が地響きのように聞こえるほどである。

「じゃあ、赤熊騎士団は負けちゃうの?」

「どうだろうな。ただ、地上戦で彼らの右に出る者はいない」

 団長さんの思わせ振りな台詞のあと、一方的にやられているばかりだった赤熊騎士団の反撃がはじまった。

 それぞれ十人ほどで小さな固まりを作っていた赤熊騎士団の騎士たちが、隙をついて水流に乗っていた水竜騎士団の騎士を引きずり落とす。

 ルールは気絶するか場外に出たら戦線離脱なので、水竜騎士団の人たちが次々と壁際に投げつけられている。下はマッドが敷いてあるので、みんな手加減はなしみたいだ。

「勝敗は決まったな。水竜騎士団は相手が悪かった」

 団長さんの言葉に、俺も頷いた。水竜騎士団の人たちも水球体を直接、赤熊騎士団にぶつけて固まりを崩そうと奮闘しているんだけど、相手の体重が重いせいで思ったような成果があがらない。

 そうこうしているうちに、三分の二が脱落してしまった。ルールでは騎士団の三分の二が戦闘不能となった時点で、相手方の勝ちとなる。

 試合終了の合図が鳴って、一回戦一組目は赤熊騎士団の勝利で幕を閉じた。

「黒魔騎士団は三組目だよね。俺、いっぱい応援するね!」

 団長さんは出場しないけど、ここはやっぱり黒魔騎士団を応援しないとね。あ、もちろん天獅子騎士団も応援するよ。

「そうか。なら、必ず優勝しないとな」

 にっこりと微笑む団長さんの背後で、なぜかたくさんの小さな悲鳴があがった気がした。



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