とある騎士の独白・上
アレン様が転生者だと気付いたのは、俺も同じ転生者だったからだ。
前世で俺は、自分が暮らしている国の名前さえも知らなかった。日々、生き延びるために奔走し、怪我が原因で命を落とした。何歳で死んだのかすらわからない。最後に見た光景は、荒野に沈む夕日だった。
こちらの世界で農民の子として産まれた俺は、魔素値が高く(500レルほどだが)、すぐに貴族の元に養子に出された。
幸いだったのは、俺が独り立ちできるまでその貴族に子ができなかったことだ。そうでなければ、息苦しい生活に何年も身をやつさねばならなかっただろう。
十八歳になった時、義理の弟ができた。魔素値は俺には及ばなかったものの、貴族としては充分に合格の範囲内で、俺はすぐに厄介者扱いされるようになった。
家督を放棄して騎士団にでも入らなければ、面倒なことになりそうだな、と感じはじめていた時、公爵家に仕えていた知り合いの騎士から雇用試験を受けてみないか、という打診があった。
貴族の私兵か。それも、仕えるのはゼルファ公爵家である。国の騎士団に入るつもりだったが、そこでは平民上がりはなにかと目の敵にされると聞く。貴族の養子だったとしても、伯爵家以上でもなければ扱いはさほど変わりない。
知り合いの騎士は、俺の剣の師でもある。彼が勤めている職場なら、少しは風通しがいいかもしれない。
当時は気付かなかったが、今思えば、俺の境遇を耳にして手を差し伸べてくれたのだろう。そんな師の優しさには気付かず、俺は家督を放棄し、公爵家の試験に望んだ。
雇用試験は予想以上に厳しいものだった。剣の腕だけでなく、人となりも重要視された。
面接の内容は多岐にわたり、食べ物の好き嫌いから異性・同性の好みまで、まるですべてを暴かれ丸裸にされたような感覚だった。そして、学園の卒業を間近に控えた俺の元に、合格の報せが届いた。
義父と親戚たちは俺を妬みながらも、公爵家との繋がりができたことを喜んでいるようだった。しかし、目に余るほどの干渉はなかった。
意外なことに、義母が義父たちを嗜めてくれたのだ。彼女との接触は少なかったが、養子に来てから一度として蔑ろにされることはなかった。それは義弟が生まれてからも同様である。
そのおかげか、義母の血を引いているというだけで、血が繋がらない義弟も可愛く思えた。
たまに実家に顔を見せると、満面の笑みを浮かべて歓迎してくれるのでより愛おしさも募る。傲慢な義父の血を引いているのかと首を傾げたくなるほど素直な子だ。
話を戻そう。公爵家に仕え、一年が過ぎた頃のことだった。俺は実力と勤勉な態度を認められ、公爵家の三男であるアレン様の護衛騎士に抜擢された。
ユミール様とディークセル様は幾度かお見かけすることはあったが、まだ二歳と幼かったアレン様のお姿を拝見したことはない。
しかし、噂だけは嫌というほど耳にしていた。魔素値が異常に高いゼルファ公爵家にあって、アレン様の魔素値はたったの10レルだったらしい。
大変だな、というのが正直な感想だ。平民だったらなんの問題もないが、貴族ともなれば話は違う。それもゼルファ家は由緒正しき公爵家である。異端として、その存在を抹消されてしまってもおかしくはなかった。
前世の記憶がある俺からすれば、弱い者が死ぬというのは自然の摂理だと思う。だが、だからといって他者の価値観で勝手に命を奪っていいものではない。
幸い、アレン様は理解力のある家族に恵まれた。騎士の雇用試験が厳しいものになったのも、アレン様の存在があったからだろう。いくら家族がアレン様を認めても、それを不服とする貴族はいるものだ。
特に魔素値を重視している懐古派の者たちは、絶対にアレン様を認めはしないだろう。噂を聞きつけ、多数の刺客が送り込まれているらしい。どうりで給料が破格なわけだ、と俺は苦笑した。
そして、顔合わせの当日。
俺は天使に出会った。
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