会計ドナドナ


◇チャラ男会計主人公。アンチ王道。




 ……俺、生徒会役員だったのに、どうして風紀委員室で風紀のお仕事をしてるんだろうね?

 目の前に積まれた書類を、もはや流れ作業のようにてきぱきと処理しながら俺は内心で疑問に首を傾げた。

 いや、俺――森川紅葉(もりかわ・こうよう)が生徒会を辞めた(正確には辞めさせられた、だけど)理由はわかってる。

 時季外れの編入生に心奪われたとかなんとかで、俺を除く生徒会役員が仕事をしなくなった。

 そんな感じで一ヶ月が過ぎて、俺が過労死寸前になっていた頃、風紀が役員らをリコールするために動き出した。

 でも、それが役員たちに知られてしまい、あいつらはよりによって瀕死の俺を生贄にしやがったのだ。

 仕事の遅延は、すべて俺のせい。しかも、会長と副会長の代理印を乱用し、勝手に書類を提出していたとのたまった。

 それを全校集会の壇上で述べ、俺を声高に糾弾した。いやはや、生徒たちも先生たちもぽかーんですよ。

 みんな役員たちが仕事放棄してたってことくらいわかってたからね。むろん、俺がそいつらの仕事を全部肩代わりしていたのも周知の事実だ。

 否定することは簡単だったけど(証拠もあるし)、でも、俺はもう疲れてしまったんだ。だから、俺は自身のリコールをすんなり呑んだ。

 生徒たちはそんな俺の内心を知ってか、なにも言わなかった。ただ、次の日になって俺の部屋に、「お疲れ様でした!」とか「ゆっくり休んでくださいね」とか「役員たちは〆とくんで」等と書かれたメッセージカードつきの花束が、大量に届けられた。ちょっと泣いてしまったのは秘密だ。

 それで、役員を辞めた俺は一般生徒に戻ったはずなんだけど――

「紅。そろそろ休憩にするぞ」

「……あのさー、今更な疑問なんだけど、どうして俺は風紀委員をやってるんでしょーか?」

 風紀委員長である、柿崎誠一(かきざき・せいいち)は、誠実さの欠片もないような意地の悪い笑みを浮かべ、「有能な人材を遊ばせておけるか」と言った。

 少し癖のある金髪を軽く後ろに流した姿は、ヤのつく自由業の人ですか?ってくらい貫禄がある。年齢を偽っているんじゃないだろうか。

「でも、腕っ節とか超弱いよー?」

「外回りなんざ、脳味噌まで筋肉でできてる奴らにやらせときゃいいんだよ」

 そういえば、風紀委員会は生徒会と違って、成績の出来不出来は関係ないんだっけ。腕っ節と人間性が重要視されるって聞いたことがある。書類の処理が苦手な生徒が多そうなイメージだよね。

「納得したところで、休憩するぞ」

「あ、じゃあコーヒー入れるねー」

 室内にいた人数を数えると、全員で六人だった。みんなコーヒーでいいのかな?と思っていると、「やべ、今日の書類処理担当でよかった!」「むしろ生きててよかった!!」「紅葉先輩は俺のエンジェルゥウウウ!!!」「どさくさに紛れて名前で呼んでんじゃねーよ!」と声があがった。えっと、コーヒーでいいんだよね?

「はい、どーぞ」

 コーヒーを配り終え(なんかみんな俺のことを拝んでた)、自分の席に戻ろうとしたら、柿崎にちょいちょいと手招きされた。なんだろう、と思って近付いてみると、ぐいっと腕を引かれて柿崎の膝の上に横向きに着席。

「お前が休憩する時は、ここな?」

「……でも、重くない?」

 質問がずれていることに気付いてはいたけど、ま、いいか。柿崎のこと、嫌いじゃないし。

 重くないと言われたので、分厚い胸板に遠慮なく寄り掛かって体重をかける。柿崎って体温高いんだなぁ、と思っていたら優しく頭を撫でられた。

 心身ともに弱っている今、優しくされたら依存してしまいそうなんだけど……ま、いいか。

 柿崎の膝ですっかりリラックスしていると、「ぎゃー、紅葉先輩が汚されるー!!」とか「紅葉先輩が孕んだらどうするんですか!」「でも、先輩の子なら委員長の血を引いてても可愛いかも……」「母親似希望。絶対母親似」なんて声が聞こえてきた。

 言っておくけど、俺、男だからね?産めないからね?

「大丈夫だ、紅。できても、責任はきっちり取る」

 だから、産めないんだけど……幸せにしてくれるならいいか。




***END***


あとがき

 風紀委員会にドナドナされた会計の話でした。溺愛風紀委員長×元会計。そして、会計はみんなのアイドル(笑)

 ドナドナされたけど幸せになるパターンです。

 生徒会役員はこのあと、生徒たちからリコールされる予定です。んで、新しい生徒会が発足。会計は役員には戻らずに風紀委員会で、委員長の嫁をやってます。

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