狂愛のススメ
◇アンチ王道編入生の弟主人公。復讐モノではありませんが、それに近いタッチです。
時は来た。
愛しい“あなた”を手に入れるため、僕は動きだす。
僕には腹違いの兄がいる。明るくて、活発で、両親の愛情を一心に受けて育った兄。僕は、そんな兄が――嫌いだった。
別の公立高校に通っていた兄が、とある理由から僕の通う全寮制の学園に編入(しかも裏口)してきたのは、今から一ヶ月前のことだ。
『俺は森悠也(もり・ゆうや)。お前なんて言うんだ?友達になろーぜ!』というのが、初対面の相手におけるお決まりの台詞。チープすぎるだろ。
大抵の人間は、あまりにも不躾な態度を取る兄に対しよい印象を持たないが、中にはそれに絆されてしまう馬鹿もいる。そう、うちの学園の生徒会役員のように。
そもそも、外見黒マリモの兄のどこに惚れる要素があるのか皆目見当はつかない。その変装自体不要だと思うのだが、兄は『俺だって嫌だけど、叔父さんが変装しとけってうるさくてさ。可愛いから襲われるだなんて、男同士なのにありえねーよな!』とのたまった。
その程度の容姿で襲われるならば、親衛隊の幹部たちは全員変装しなければならないだろう。
そもそも、叔父が変装をしろと言ったのは、そういう意味ではないのだが。兄は自分に都合がいいように曲解しているようだ。これはむしろ病気といっていいレベルなので、いちいち気にしていたらきりはない。
生徒会役員をはじめ、名立たる美形をホイホイした兄は、『親衛隊なんてサイテーだ。俺はどんなイジメにだって屈しないからな!』とほざき、全校生徒の約三分の一を占める親衛隊員全員を敵に回した。
しかも、警告のための呼び出しを勘違いし、暴行されそうになったと叔父に訴えた。イジメに屈しないという発言は、理事長である叔父が背後にいると知った上での強勢だったようだ。
叔父は苦々しい顔をしていたが、一応、風紀委員会に取り締まりの強化を通達した。問題の親衛隊員を退学にすべきだと主張していた兄は不服そうだったが、生徒会役員らに慰められるとすぐに機嫌を直していた。
つくづく、幼稚で独り善がりな性格だ。アレと血が繋がっているというだけで死にたくなってしまう。きっと、叔父も似たような心境だろう。
そんなわけで、今、うちの学園は“森悠也”という台風のおかげで荒れに荒れまくっている。
ちなみに、僕がそれの弟であるということは学園の誰もが知っているが、僕に対する制裁は一切行われていない。
それは、僕自身が親衛隊持ちであるということと、初等部から培ってきた“信頼”のなせる業だ。
もっとも、僕が制裁を受けないことに対し、兄は『なんで俺だけなんだよ。贔屓だ!』と不服そうに叫んでいたが。
まあ、そんなことはどうでもいい。正直、兄のせいで学園内がどれほど荒れようと、僕は罪悪感など微塵も感じない。
僕はそこまで高尚な人間ではないのだ。むしろ、誰よりも利己的で、醜くて、狂った存在だ。
だって、僕は兄を餌に、あの人を釣り上げようとしているもの。生徒会役員で、唯一兄に陥落しなかったあの人。
単純に告白するだけじゃ、あの人を手に入れられないことくらいわかっていた。だから、僕はじっと動かずに時期を待っていたのだ。あの人の心が弱って、誰かに救いの手を求めるその瞬間を。
――僕は兄とは違う。上辺だけの愛情じゃなくて、あなたが求める以上のモノをあげる。
だから、僕のところにまで堕ちてきて。そしたら、僕以外、誰も目に入らなくなるくらい、ドロドロに愛してあげるから。
「――こんにちは、先輩」
そして、僕の目の前には弱り切った“あなた”。
***END***
あとがき
生徒会会計(チャラ男)×美形主人公(ヤンデレ腹黒)でした。会計出てきませんが……。
王道君のせいで仕事を放棄した仲間の分まで頑張ってて、攻めが身も心もボロボロになったところにつけ込もうとしている受けっ子の話です。
ちなみに王道君は前の学校で色々とやらかしちゃったので、叔父さんに変装を強要されたオチ。
プロットを練っていて、溺愛ラバーに似ていたので却下された話だったりします。でも、主人公は復讐なんて面倒なことはしません。自分たちに降りかかる火の粉は払うけど、勝手にやれば?的な考えです。
主人公たちがいちゃいちゃしている脇で、王道君たちは勝手に破滅していきます。
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