これより一斉点検を行う!


◇脇役主人公ポジな平凡(中身非凡)君の友人視点。アンチ王道。
※下品な表現があります。ご注意ください。




 面倒だから簡単に説明しようと思う。俺の友人、桜井(さくらい)は中学生の頃ちょっとやんちゃをしていた。

 金髪(地毛)だったことから、黄金と呼ばれていたらしい。痛いな。哀れんだ眼差しで見たら、黒歴史なんですごめんなさいと額を擦り付けるようにして土下座された。うん。誰にでもあるよな、忘れ去りたい過去ってさ。

 そんな黄金時代。桜井は火龍というチームによく出入りしていた。総長に気に入られたまではよかったのだが、それが恋愛方面だったらしく掘られかけた。ご愁傷様としか言いようがない。

 哀れんだ眼差しを向けたら、未遂だから未遂、と「未遂」を必死に強調されてしまった。でも、ケツに指を三本も突っ込まれてアンアン言わされたら、未遂もなにもないと思う。股間を蹴って逃げたらしいけど。

 奴がうわ言のように「未遂」を繰り返していたので、しかたないからそういうことにしてあげた。優しいね、俺。ついでに、桜井の頭も撫でてあげた。

 桜井的にはよほど衝撃だったのか、それをきっかけにやんちゃからは足を洗ったそうだ。総長さんが自分を捜していると知ると髪を黒く染め、通学中に街で出くわさないようにとわざわざ全寮制の学園に進学した。

 平凡な顔立ちもあって、目立たない地味男君ポジを手に入れたわけだが、そうは問屋が下ろさない。なんと、桜井のケツを追っ掛けていた総長さんは、うちの生徒会長だったのだ。

「でもさぁ、まだ見つかってないからいいんでない?」

「まあな。このままさっさと卒業してくれるといいんだが……」

「それにさー、あの編入生が“自分は黄金だ!”って騒いで面倒事ばっかり起こしてるから、本物を捜してる暇もなさそーだし?」

「あれを本物だと信じて引っ掛かってくれれば、俺的に一安心なんだけどな」

 溜息をついて、桜井は食堂の中心でぎゃあぎゃあと騒いでいる一行を一瞥した。なんか、二週間くらい前に編入してきた生徒が、「俺が黄金だ!」って言い張ってるんだよね。

 確かに金髪だし可愛い顔をしてるけど、今のところ信じているのは会長を除いた奴らだけ。でも、適度に騒ぎを起こしてくれるから、本物の捜索を行っている会長は忙しさのあまりなにもできていないのが現状だ。

 編入生最高。痛い名前なんざ熨しつきでくれてやる、と友人はいい笑顔で親指を立てていた。

「でもなー、会長様んとこの親衛隊長さんは、右斜め上を爆走するタイプだから。それに会長様だって、いつまでもこんな事態に甘んじているとは思えないんだよねー」

「おまっ、不吉なこと言うなよ!」

 カルボナーラをフォークにくるくると巻きつけて、お口にぱくり。もぐもぐしながら、俺は考えた。

 だって、会長さんは執念で桜井がこの学園にいることまで突き止めたのだ。あと少しという状況で、手をこまねいているとは思えない。

「まずは、邪魔者を片付けると思うんだよねー」

「……おい、だから不吉なことを、」

 桜井が言い終える前に、食堂の扉が開かれた。そこに立っていたのは、完璧という言葉がぴったりな超男前会長様。

「お、さっそく編入生が突進していった……あ、ぺしってやられた」

 と、そこで会長に近付く人物が。よく見てみれば、それはいつも予想の右斜め上を爆走してくれる隊長さんで。声高に編入生を糾弾しはじめた。

「会長様。とうとうこやつが偽物であるという証拠を手に入れました!」

「なっ、俺は黄金だ!偽物じゃない!」

「以前、本物の彼は“この髪は地毛だ”と言っていました。ですが、編入生は地毛ではありません。脱色しただけです」

「そ、染めてなんかない!」

「では、ズボンと下着を脱げ」

「はあ!?」

「先日、貴様に制裁を行った生徒から証言を取った。未遂だったが、ズボンと下着を脱がすことに成功したらしい。そやつが言うには――貴様の下の毛は黒かったそうだ!会長様。本物の彼は、下の毛も金色でしたよね?」

 それに、うむ、と頷く会長。あ、桜井の魂が抜け掛けてる。そっかー、こいつの下の毛はキンキンなのか。

「つまり貴様は偽物だということだ!本物であるならば、潔く下着を脱いで証拠を見せるがいい!」

 むろん、下の毛が黒いらしい編入生が証拠とやらを見せられるはずもなく、泣きながら食堂を出て行ってしまった。それを満足げに見送った隊長さんは、なぜか食堂にいる生徒たちを見回した。

「――この理論でいけば、黄金は髪を黒く染め一般の生徒に擬態していると推測されます。つまり、上の毛ではなく、下の毛が金色である生徒を捜せば――」

 あ、なんかやばい感じになってきたかも。ちょっと桜井さん。魂を抜いてないで、帰ってきてー?

 カルボナーラをもぐもぐしていると、食堂の出入り口を屈強な生徒たちが固めはじめた。その前に立つ隊長さん。凛々しいね。

「これより、一斉点検を行う!食堂にいる生徒たちは、潔くズボンと下着を脱ぐように!」

 やっぱり右斜め上を爆走するんだね。焦って逃げ出そうとする桜井を、俺はどうどうと宥めた。

 結果的に、隊長さんの暴挙は会長によって押し留められた。さすがに、ズボンと下着を強制的に脱がせるのはどうかと思ったらしい。会長は意外と常識人。強姦魔(未遂)だけど。

 ちなみに、無事に食堂から部屋に帰還したあと、桜井が下の毛を染めるべきかどうかで悩んでいたので、「剃ればいいんじゃない?」とアドバイスした。……殴るってどういうことー。




***END***


あとがき

 傍観者ポジションの友人が書きたかっただけのお話でした。ちなみに主人公の苗字は、黒井(くろい)です。

 桜井君はこのあと、会長に見つかってしまいます。でも、桜井×黒井もいいな……。会長の初恋は散ってしまいますが。

 桜井君はちょっと男前系で、主人公はゆるゆるな脱力系です。

- 31 -

[*前] | [次#]

←mainに戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -