敵か味方か、それとも……?


◆「久し振りに実家に帰ったら、父と兄たちに土下座された件」「王宮にあがったら、関係者ばかりだった件」「まずは陣地を固めましょう」の続きです。未読の方は、まずそちらからお読みください。





 両腕を広げても足りないくらい大きなテーブルに並べられた、美しく磨かれた宝石たち。数こそ少ないが、そのどれもが小貴族だったら立派な屋敷が建てられるくらいの代物である。

「――陛下からお好きな物を一つお選びになるよう、申しつけられております」

 ここが王宮じゃなかったら、口笛の一つも吹いていただろう。俺はこっそりと、この場に居並ぶ側妃候補者たちの様子を窺った。

 目を輝かせている者たちと、顔にこそ出さないがこの程度の宝石かとやや興醒めしている者たちに別れているようだ。

 その中、俺の知り合いである元暗殺者君の護衛対象者だけは、なんの感情もない顔で宝石を眺めていた。なんか訳ありっぽいんだよねぇ。よし、あとで元暗殺者君に訊いてみよっと。

 ちなみに、一番瞳をキラキラというか、ギラギラさせていたのは我が友人、リウルである。きっと自分に似合うものではなく、もっとも高価な宝石を選びそうだ。

「どうぞ、お手に取ってご覧ください」

 お手に取って、とは言うけれど、実際に俺たちは宝石に触れたりしない。代わりに、手袋を嵌めた侍女さんたちが宝石を持って、服や顔色に合わせてくれるのである。それを鏡で眺めるのである。

 あとは選んだ宝石を使って、宝石商お抱えの職人たちが美しい装飾品に仕立ててくれるというわけだ。今回は首飾りだって。側妃候補者たちに宝石違いで揃いの首飾りを贈るなんて、悪趣味だよねぇ。

 しかし、どうやらこれは国王陛下なりの誠意らしい。王宮にあがって、七日。政務に忙しい国王陛下は、未だ一度も側妃たちがいる離宮を訪れてはいない。ちょうど隣国がきな臭いことになっているから、そっちの対応に追われているんだろうけどね。

 側妃候補者とはいえ、みなそれなりの家の者である。ヘソを曲げられて、のちのちその生家と面倒なことになるのは国王といえども好ましくはないのだろう。贈り物で機嫌を直せっていうのも安直だけど。

「レオン様。お気に召すものはございましたか?」

 椅子に座って、目の前の宝石をぼんやり眺めていると、宝石商の一人が隣に立った。先ほど代表者として挨拶をした男だ。

 年齢は二十台半ば。浅黒い肌と宝石のように美しい緑色の瞳は、異国の血が入っている証拠だ。男らしい精悍な顔立ちは、宝石と同じくらいご婦人方の視線を集めていることだろう。

「ふふふ。どれも綺麗で、迷ってしまうね」

「でしたら、こちらなどはいかがでしょう?南国から取り寄せた、白涙石(はくるせき)です」

 白涙石自体は安価なものが多いが、その大半は白い本体に色が混じったものばかりである。なんの混じりけもなく、白ければ白いほど金額が跳ね上がっていくという代物だ。箱に収められたそれは、まさに純白。わずかな色の混じりも見当たらない。

 しかし、白涙石はあまり人気のある宝石とは言えない。きらびやかな衣装に合わせるとなると、やはり派手な色合いの宝石が好まれるからだ。売れ残りそうな宝石を押しつけられたとも思えるが……。

「あなた様には、白がとてもよく似合う」

「……ふうん。じゃあ、これでいいよ。装飾は任せる」

 他にどんな宝石を使うのか、デザインはどんな風なのか拘る人もいるけど、俺は丸投げである。だって、どれが流行りだとかわかんないし。俺は早々に席を立って、退出を伝えたあと部屋を出た。

 ほどなくして、リウルが足早に追い掛けてくる。

「もっとじっくり見なくてもいいの?」

 中庭に移動して、侍女たちを下がらせてから俺はリウルに訊ねた。遠くから見れば、俺たちは談笑しながら花壇を眺めているようにしか見えないだろう。

「二番めに高価そうなものを選んできた。一番は、きっとお前が選んだ白涙石だぞ。狙ってたのに」

「リウルはは白じゃなくて、もっと派手な色の方が似合うよ。念のために言うけど、あとで売っ払おうなんて思ってないよね?」

「も、もちろんだ!」

 目が泳いでいるけれど、さすがに国王から下賜された物を売ろうとは思わないか。不敬罪に問われるわけじゃないけど、他の貴族たちから白い目で見られちゃうからね。

 ばれないだろうと思っても、意外なところから情報というものは流出してしまうものなのだ。

「ところでさぁ。今日の宝石商って、王妃様が贔屓にしているとこなんでしょう?」

 もしかしたら、今回のこれは王妃様の提案だったのかもしれないな。側妃を勧めるくらいだし、関係は良好であるに越したことはないと考えているはずだ。

「ああ。特にあの嫡男――さっきの代表者と名乗った男がお気に入りで、よく王宮に出入りしているらしい。最近は病気気味の父親に替わり、至るところに顔を出しているそうだ。かなりの遣り手だと評判だな。名前は確か、ヴェルダ・スノールだったか」

「さすがリウル。情報が早いね」

 情報は金だ!と豪語するだけはある。ふうん。でも、そっかぁ。

「ねえ、リウル。前にさ、一度だけ俺の二番目の彼氏の話をしたことがあったよね。酒を飲んでた時だけど、覚えてる?」

「仕事で、国内どころか他国にまで行ったり来たりしている奴だったか。放置しすぎだろ!って、お前がキレる形で別れたという話だろ」

「そう、それそれ。いやぁ、まさか有名な宝石商の跡取りだとは知らなかったな」

「…………は?」

 デートのすっぽかしは当たり前。会えない時は、二ヶ月も音信不通ときたもんだ。さすがの俺も、堪忍袋の緒が切れるというものである。

 なかなか会えない相手に痺れを切らし、俺は別れる趣旨を書いた手紙を送ってやった。顔を見てから振ってやろうと思っても、会えないのだから仕方ない。

「しかも、あっちは俺に気づいてるっぽいし」

――君には、“白”がよく似合う。

 昔、口説き文句のようにさんざん言われ続けた言葉だ。それに、白涙石に秘められた言葉は――。

「“今でもあなたを愛してる”」

 白涙石のように真っ白な薔薇を眺めながら、俺はリウルには聞こえないようにそっと呟いた。

 だったら、最初から俺を大切にしてくれてたらよかったのにね。




***END***




new!!
二番目の恋人……(26)宝石商の跡取り。攻め。



☆あとがき

 また関係者が出てきたよ、やったね!という話でした。

 正直、二番目の恋人は考えてなかったんですが、貴族ばっかりじゃあれだよな……宝石商としてやってきたら面白いんじゃないかと思いつき、書いてしまいました。

 ちなみに、ヴェルダ君は攻めです。父親の跡を継ぐために頑張っていたら、恋人に逃げられてしまった自業自得な人。事情を話せばよかったんでしょうけど、恋人を仕事に巻き込みたくなかった系です。

 有名な宝石商なので、命を狙われることもあったでしょうし。しかし、それが裏目に。手紙を受け取ったあとは、宝石商の跡取りとして足固めを行いながら、主人公を探していました。

 王様と違って、主人公が貴族の出であることに薄々気づいていたので、ちょうど側妃選びがはじまった辺りに主人公の正体に辿り着いた感じです。

 残念、ちょっと遅かったね!でも、しっかり未だに好意を持っているアピールは忘れない。

 ヤンデレが入っていても美味しいなぁ……。

 リウルはお兄ちゃんと一緒で、不憫枠ですね(笑)

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