王宮にあがったら、関係者ばっかりだった件


◆「久し振りに実家に帰ったら、父と兄たちに土下座された件」の続きです。
過去ですが、主人公が攻めもやったことがある、という設定が出てきます。主人公は誰に対しても受けじゃないと嫌だ、という方はご遠慮ください。





 国王陛下の側妃候補として王宮にあがった翌日。側妃候補たちが暮らすことになっている離宮の中庭では、ささやかながら歓迎パーティーが開かれていた。

 国王陛下に、俺を含めた七人の側妃候補者たち。それぞれお付きの従者らと護衛の騎士たち。

 テーブルの間を忙しなく、しかしけっして品位を損なわずに動き回って給仕に徹している侍女たちが一堂に会すれば、なかなかの大人数になる。

 これくらいいれば、一人くらいおかしな動きをしても気付かれにくいだろう。輪から少し離れた場所に立っていた俺は、注意を引かないように護衛として建物の入り口付近で待機しているユーリア兄さんに近付いた。

「お勤め、お疲れ様」

「ああ、レオンか。楽しんでるかい?」

「んーそこそこ。やっぱり、お城だけあって料理が美味しいよねぇ」

「王宮の料理人たちは、国一番と言ってもいいくらいの腕前だからね。それと、よく似合っているよ、その衣裳。俺の弟は美人さんだね」

「ありがとー」

 側妃候補というだけあって、男性用の正装とは違い、大半の者たちが色鮮やかな衣裳を身に纏っている。

 俺もその例に漏れず、白を基調とした男性用の礼装に金糸の刺繍が施されたストールを肩に羽織っていた。

 結い上げられた金髪には真っ赤な花飾りが彩りを添え、それに合わせるように目尻と唇に薄紅が引かれている。

 もっとがっつり化粧をしてる奴もいるけど、俺はこれが限界。これ以上はむり。

 本題に入るべく、俺はにっこり微笑んで次兄を見上げた。

「ところで、兄さん。この中に、俺の一番目と三番目の彼氏と、街で因縁をつけられたからボコボコにしてやった奴と、コンビを組んだら成功報酬持ち逃げされてボコボコにしてやるために捜してた奴と、知り合いの元暗殺者が混じってんだけど」

「……とりあえず、元暗殺者が誰かだけ教えてくれるかな?」

「じゃあ、報酬持ち逃げした奴をボコボコにしていい?」

 ずっと捜してたんだよね。けっこう高額な報酬だったし、なにより信頼していた相手だけに俺の心も傷ついた。

 今も昔も単独で活動している俺だけど、あいつとならコンビを組んでもいいかなとさえ思っていたのだ。

 持ち逃げした金を弁済させたうえで、ボコボコにしてやらなければ気が済まない。でも、それには問題が一つあって。

「まさかモルタール公爵の従弟だとは思わなかったなぁ」

 侯爵家に属する俺が手を出したとなれば、ちょっと……いや、実家を巻き込んでのけっこう重大な問題になる。まあ、ばれなきゃいいんだけどね!

「止めて。本気で止めて。というか、モルタール公爵の従弟って側妃候補者だよね。なんで冒険者やってんの」

「やだなぁ。俺だって冒険者じゃん。あとね、三番目の彼氏も側妃候補だよ。保養地で出会ったから貴族だとはわかっていたんだけど、まさか元恋人と側妃の座を争うことになるとは思ってもみなかったなぁ。こっちは互いに納得して別れたから、ばれても問題はないよ。でも、一番目の彼氏がちょっと……いや、かなり大問題でさぁ」

「聞きたくない。聞きたくない」

「実は妻子持ちだったことを隠して、俺と付き合ってたんだよね。それで、ぶち切れてボコボコにしちゃってさ」

「……うん。ものすごく訊きたくないんだけど、この中で妻子持ちの同性って陛下しかいないんだよね。俺の勘違いであってほしい。切実に」

 あ、これ駄目な奴だ。ユーリア兄さんが遠い目をしたまま息をしてない。さすがに国王陛下をボコボコにしたのはまずかったかなぁ。

 でも、知らなかったし。貴族だろうとは思ってたけどさ、まさか自分の国の王様だなんて思わないだろ。俺、王様の顔知らなかったしー。

 というか、あいつ妻子がいるなんて言わずに、初心だった俺にあーんなことや、こーんなことを教えたんだぞ。偉そうな顔しやがって、このエロ魔神が。妻子云々はこっそり護衛していた騎士さんたちから聞いたのだ。

「そういえば昔、陛下がどこの誰かわからなくなるくらい顔を腫らして帰って来た時があったなぁ……。王宮は大騒ぎになって、ふふふ」

「潰さなかっただけ褒めてほしい」

 もちろん、ナニをです。一瞬、潰してやろうかなと思ったけど、同じ男としてそれは止めてやったのだ。

「成人していたとはいえ、俺はまだ十七だったんだ。あっちが悪い」

 この国では十六になれば成人と見なされる。冒険者登録は十四歳からなんだけど、成人じゃないと受けられない依頼も多い。

 とりあえず登録しておいて、学業の傍らに活動する者や、別の仕事と掛け持ちしながらという者もいる。

 本格的に冒険者として活動するのは、成人後という者が大半なのだ。まあ、俺は依頼とは別に、色々な迷宮を回りまくってたけど。

「それは陛下が悪いね」

 ユーリア兄さんの目が物騒な輝きを帯びた。陛下をお説教するのはいいけど、俺があの時の少年だとばれないようにしてね。

 というか、あれからもう三年も経ってるし、身長もだいぶ伸びた。雰囲気もだいぶ変わったと思う。付き合ってたのは一ヶ月だけだったから、ばれないよね?毎日会ってたわけじゃないし。

 それに、まだ冒険者として軌道に乗っていなかったこともあって、いつも薄汚れた格好しかしてなかったから“今”の俺との共通点はものすごく少ないと思う。

 冒険者だと教えてはいたけど、名前は街でよく使うものを名乗っていたからギルドの方面からの特定も不可能だったはず。

 ランクがあがればあがるほど、腕試しとばかりに喧嘩をふっかけてくる奴らがいるからね。それ対策で、昔から街では冒険者名を名乗らないようにしているのだ。

 というか、あっちも遊びだったわけだから、そんな昔のこといちいち覚えてないか。相性を確かめるために迫ってきたら、適当に体調が悪いとかなんとか言って誤魔化そう。浮気野郎には、指一本触れさせるつもりはない。

「知り合いの元暗殺者は、側妃候補の護衛だと思うから警戒しなくてもいいと思うよ。返り討ちにしてやった際に、もう悪さしません改心しますって約束してくれたから。仕事から足を洗うのも手伝ってあげたし。でもさぁ、あっちはまだ俺に気付いてないっぽいの。笑えるー。あとで驚かしてやろう」

「……時々、自分の弟がわからなくなるよ。ちなみに、街中で因縁つけてきた相手というのは、どなたなんだい?まさか宰相閣下とか言わないよね?」

「宰相閣下って、あの厳つい顔のおっさんだよね。違う、違う。俺がボコボコにしたのは、あの隅っこの方で警護してる近衛騎士団の人。確か半年くらい前だったかな」

「うん、そっか。王妃殿下の二番目の弟だけど、問題ないね」

 今は僕の部下だから、とユーリア兄さんは実にいい笑顔で言い切った。王妃様の弟だったのかー。ということは、フリークス公爵家の次男なんだね。

 ナンパされて、それを断ったら「冒険者の癖に騎士の誘いを断るのか!」って、逆ギレされたんで適当にボコって路地裏に放置してやったんだよね。

 路地裏を縄張りにしてる屈強な冒険者たちが、代わる代わるお相手してくれたんじゃないかな。




 しかし、どうしてこうも昔の知り合いが集まってしまったのか。

 偶然とは、なかなかに恐ろしいものである。





***END***





 一番目の恋人……国王(37)。←この際、主人公は受け。

 三番目の恋人……キシェ侯爵家次男(23)。←この際、主人公は攻め。

 報酬持ち逃げ男……モルタール公爵の従弟(22)。

 元暗殺者……マルゼル侯爵家側妃候補者の従者(18)。

 街中でボコった奴……近衛騎士団の下っ端。フリークス公爵家の次男(22)。屈強な冒険者にアッー!されそうになったけど、自力で逃げた。自分の軽率な行為をものすごく反省している。地味に主人公がトラウマ。




◇あとがき

 関係者が揃ってたら笑えるな、と思って書いてみました。いかがでしたでしょうか?

 王様と初対面も美味しかったのですが、実は元恋人だったというのも面白そうですよね。もちろん、王様は本気でした。王妃様とはあくまでも政略結婚、国のための結婚だったので、恋愛感情はないです。もちろん、王妃様も。同胞っぽい感覚なんでしょうね。

 王様は自由に生きる主人公を離宮に閉じ込めてしまうことに罪悪感があって、連れ帰ろうかどうしようか悩んでいる間に、妻子がいることがばれてボコボコに。

 未だに過去の恋を引き摺っています。というか、主人公以上に好きな相手ができない。側妃については、宰相が「うだうだ言ってんじゃねぇ。出会いの場を設けてやるから、さっさと次の恋を探せ」とばかりにセッティング。

 王様は誰も選ばないつもりでしたが、主人公がいることに気付いて……このあとは、考えてません。←

 というか、王様よりもその他の人たちとの関係を考えるのが楽しすぎる。

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