久し振りに実家に帰ったら、父と兄たちに土下座された件


◇異世界設定の(一応)王宮もの。軽い系主人公受け。攻めは出てこない……。




 急いで帰れ、と連絡があったので久し振り―― 一年くらいか?――に王都にある実家に帰ったら、なぜか玄関先で父親と長兄、次兄(兄たちは双子)に土下座された。それは額を床につけた、見事な土下座だった。

「……えーと、とりあえずただいま帰りました。どなたかと間違えてませんか?」

「間違えてない。すまなかった。だから怒らないでくれ」

「いや、百歩譲って怒ってもいい。屋敷も半壊……は、嫌だけど、頑張って立て直す」

「ごめんねぇ、不甲斐ない兄ちゃんでごめんねぇぇぇぇぇぇ!!」

 上から、父、長兄、次兄の順である。お前ら事前に打ち合わせしたのかってくらい見事な連携だった。次兄はおかしいけど。

 とりあえず、こいつらは俺が怒り狂って屋敷を半壊するようなことをお願いしたいらしい。正直、このままなにも聞かなかったことにして、玄関のくそ重い扉を閉めたい。

 しかし、その奥で困ったように微笑む母の視線が、「なにもなかったことにして出て行ったら、どうなるかわかってんでしょうね?」と物語っているので、渋々肩に背負っていた荷物を床に置いた。

 それを見ていた使用人たちが、逃がしてなるものかと荷物を抱え上げ奥に運び込んでしまう。俺に味方はいないらしい。

「本当はゆっくりとお風呂につかって旅の疲れを癒やしたいんですけれど、まずは説明してください。了承するかしないかは、それから返答しますので」

 というわけで、場所を屋敷で一番広い応接室に変えて、話し合いを再開する。目の前のテーブルには高級な紅茶と焼き菓子が置かれ、俺はまずカラカラに渇いていたのどを紅茶で潤した。うん、やっぱりうちの執事が入れる紅茶が一番美味い。

「――で?」

 話を促すように父を見れば、ゴホンとわざとらしい空咳が響いた。

「お前には、国王陛下の側妃候補として王宮に上がってもらうことになった」

「親父殿は頭が湧いてしまったようだ。侍医を呼べ」

「息子よ。大丈夫だ。父の頭は限りなく正常だ」

「余計悪いですよ」

 俺は溜息をついた。国王陛下。国王陛下、ねぇ。この国では同性同士の婚姻が認められている(認められていない国もある)。

 基本的に一夫(妻)一妻(夫)制だが、跡取り問題が重要視される、王族や貴族に限っては側妃や妾が認められる。

 なので、国王に側妃を、という話が持ち上がったこと自体は不思議でもなんでもない。
しかし――。

「確か、国王陛下にはお子様が二人いらっしゃいますよね?」

 王妃とは政略結婚ではあるが、仲は悪くないと聞いている。二人の王子も男児で、跡継ぎ問題に支障があるとは思えない。なにより、なぜ側妃を必要とする?しかも、子を為せない男を。

「実は、王妃様が政務に専念したいと仰せられたのだ」

「あー、仕事大好き!って方でしたからね」

「それで、その陛下に……夜の方のお勤めをお断りしたい、と。もともと体が丈夫な方ではなかったので、だいぶ負担となっていたようだ」

「ふむ」

「しかし、陛下はまだ三十代の男盛り。ならば側妃を、という声があがり、王妃様もそれに同意なされた。しかし、ここで問題が持ち上がった。万が一、側妃との間にお子が産まれてしまえば、後継者問題の火種となりかねん」

 確かにこの国には権力志向の強い、目をギラギラさせた貴族さんが多いもんね。それを陛下が上から強引に押さえつけている形で、国が回っているのだ。上が余計な火種はいらないと考えるのも頷ける。

「避妊したとしても、完璧というものは不可能だ。ならば側妃を男にすれば問題ない、ということで話がまとまってな。侯爵家以上から一人ずつ、側妃候補を差し出すことになったのだ」

 ちなみに、公爵家は三つ、侯爵家は八つある。うちは侯爵家だ。伯爵家以下はけっこうな数に登るので、今回は侯爵家までとなったのだろう。

「王妃様の生家であるフリークス公爵家と、王弟殿下にご子息が嫁がれたラスティニア侯爵家、王妹殿下が嫁がれたセロビア侯爵家、王太子殿下とこ息女の婚約が決まっているリズア侯爵家が辞退を申し出ているので、合計七人の候補者が王宮に上がることになっている。むろん、あくまでも候補だ。陛下に見初められてはじめて側妃となれる」

「一人だけですか?」

「……陛下次第だ」

 つまり、気に入ったら全員ゲットできるというわけだ。いいご身分ですねー。

「それで俺に白羽の矢が立ったと。でも、どうして俺だけなんですか?ユーリア兄さんだって問題ないですよね?」

 父の隣に座る次兄に目を向ければ、びくっと肩が跳ね上がった。ユーリア兄さんは、母親譲りの金色の髪に青い瞳の艶のある美形だ。年齢も二十九歳。まだ結婚していないし、婚約者もいなかったはず。

「しかも、近衛騎士団の副団長じゃないですか。陛下とは旧知の仲なのでしょう?陛下だって、知らない相手より、知っている相手の方が気安いと思いますよ」

「俺にはすでに恋仲の相手がいるんだよ。陛下の幼馴染みの第一騎士団長。本当は振りだけでもって思って俺が立候補しようとしたんだけど、その……団長が振りでも絶対に駄目だって。それを知ってるから、陛下も俺が側妃候補にあがるのは拒否するって」

 頬を染めて嬉しそうに言いやがって。しかし、そうなると該当者は俺だけってことか。三男がいるのに分家の子を養子にして、というわけにもいかないしな。

 だけど、この俺が側妃候補ねぇ……。

「貴族としての責務を忘れてはいませんよ。親父殿が命じるのであれば、側妃候補として王宮にあがりましょう」

「そ、そうか。やってくれるか!」

「選ばれなくてもいいんでしょう?」

「もちろんだ。むしろ、絶対に選ばれてくれるな!」

「はいはい」

 選ばれなきゃいいなら簡単だ。ただなぁ。側妃選びというなら、体の相性も大事だからとそういうこともしなきゃいけないんだろうなぁ。

 ま、俺的には困らないけど。そっち方面ではけっこう奔放で男も女もいける口なのだ。むろん男役女役だって拘りはない。

 ただし、二股は言語道断。恋人がいる間は誠実であるつもりだ。いない期間は、多少奔放にもなっていたけれど。

 男慣れしてるってばれたら落とされるかな。それとも、夜のお相手としての選定ならそっちの方面が得意な方がいいのか?この辺りはユーリア兄さんに訊けばいいか。とりあえず、選ばれない方向で頑張ろう。

「しかし、いいんですか?」

「……なにがだ?」

 歓喜に打ち震えている父親と兄たちに、首を傾げて見せる。

「冒険者ギルドのS級ハンターが、この国での最重要人物に近付いても」

「ま、待て。お前、こないだまでB級だったじゃないか!?」

「いつの話をしているんですか。A級になったのは一年も前ですよ。それで先日、西のヨダン火山に住み着いていた火竜を退治したことを評価されて、S級に昇格しました」

 そう、実は俺は冒険者ギルドに所属している冒険者だったりする。今回の帰省はその報告も兼ねているんだよね。

 長男と違って、将来の選択肢の幅が限られている次男以降は、腕に覚えがある者ならば騎士団を目指す。俺は規則に縛られるのが嫌いだったから冒険者になったけど。

 十四の歳に冒険者になって六年。もうちょっと掛かるかと思ったけど、けっこう早くS級になれたな。火竜様々である。その戦いで何度か死にかけたけどさ。

「ユーリア兄さんだって、副団長に昇格したじゃないですか」

「レベルが違う!」

 ま、ばれなきゃいいのか。冒険者登録は本名だけど名乗っているのは通称だし、侯爵家の三男だということは一部の者しか知らない。ここで「そんなことやってられるかー!」と叫んで出奔するほど、俺は親不孝者でもないのだ。




***END***




あとがき

 設定だけ思いついたので書いてみた。よくある話ですね。

 たぶん王様×主人公になるはず。でも、主人公的には同じ側妃候補者狙い。可愛い子ばっかりだから、王様のお眼鏡にかなわなかった子をもらっちゃおうと思っています。でも、王様は主人公にロックオン(笑)

 主人公はゆるゆるのチャラ男系かな。色っぽい感じの美形さんです。一応、実家なので敬語ですが、普通はもっと砕けた口調です。

 冒険者はB級・C級が一番多い感じですね。そこからA級に上がるのが難しく、S級になれるのは限られたごく一部です。

 ちなみにS級は化け物級なので、普通、国王と同じ空間にいるなんてありえません。騎士団の精鋭を揃えた上で、なんにもしないよ!という確約を取り付けたうえで面会するレベルです。お父さん真っ青(笑)

 でも、候補者を差し出さないという選択肢はないので、ガクブルしながら主人公を送り出します。もちろん、息子は絶対に国王を害したりしないと信じているから送り出します。S級になっているだなんて思ってなかったんや……。

 冒険者になってから六年でS級というのは早い方ですが、だいたいS級になる人たちは規格外が多いので、みんな十年以内にはS級になっています。最短は二年くらいですかね。

 主人公最強もの、というわけではありません。上にはもっとハイレベルの化け物たちがいるので。

 
 王様は三十七歳。年の差美味い。ニヒルなおっさんをイメージしています。

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