拝啓、母上様
◇平凡受け。たぶん溺愛総受け。
拝啓、母上様。
久しくお会いしておりませんが、お元気でしたでしょうか。いつものように砂糖と塩を間違え、父を悶絶させてはいないでしょうか。父も、もうすぐ定年です。健康には気を遣ってあげてください。
俺は慣れない土地で、未だに異文化の違いに驚くことばかりですが、怪我や病気もせず元気に暮らしています。
最近、よくあなたが口癖のように言っていた言葉を思い出します。
『つーちゃんはね、偉い王様になるのよ。だから、ちゃんとお勉強しましょうね。遊ぶのは宿題が終わってからよ』
『つーちゃんには臣下がたくさんいるの。みんなの見本にならなきゃいけないんだから、好き嫌いしては駄目よ。ニンジンとピーマンを残さない』
『つーちゃんはみんなに尊敬される王様になるんだから、自制心を育てなきゃ。今月は厳しいからその玩具は買えません』
俺はそれをいつも、話半分に聞いていました。民主主義国家の日本で、王様になんてなれるわけがありません。
王様のように偉い立場の人になりなさい、と言われているのだと思っていました。……今、考えると、“王様”という言葉を実に都合よく使っていたような気がしますが。
俺が大学に進学するため一人暮らしをはじめた時も、号泣する父とは違い、あなたは少し寂しげではあったけれど、笑顔を浮かべていましたね。
『一人暮らしは今しかできないものね。王様になったら、滅多なことじゃ一人にはなれないから』
息子がこの年になっても、その設定を引き摺っているのかと、相変わらずのメルヘンさにさすがの俺も苦笑した覚えがあります。
一人暮らしは楽しかったけれど、とても大変でした。あなたの偉大さを思い知らされた気がします。
大学を卒業した日。
あなたは泣きそうな顔で俺に言いましたよね。
『優しい王様になってね、つーちゃん』
それに俺はどう答えていたのか、よくは覚えていません。きっと適当に頷いたのではないかと思います。嫌だというと、優しいあなたがもっと悲しい顔をすると思ったから。
まさかそれが別れの言葉になるとは思っていませんでした。
「陛下のお成りである!」
よく通る美声が、謁見の間に響き渡る。ここで銅鑼が鳴ったら完璧だ。
宝塚の階段を思わせる壇上。その下には、各種族から選ばれた勇猛果敢な戦士たちが床に膝をつき、頭を垂れている。俺はいつも通りに、壇上にあった豪奢な金ピカの椅子に座った。
母上様。
話半分に聞いていて申しわけありませんでした。
確かに、俺は王様になりました。
ですが……。
「魔王陛下万歳!!」
王様は王様でも、魔王だなんて聞いてませんよ。
***END***
あとがき
実は魔王様で、成人するまで異世界で育てられていた設定。母親が異世界出身で、父親は普通の人間。
主人公最強話ではないです。むしろ主人公は最弱なんじゃないかな。魔王の存在が大地を活性化させるとか、魔王がいないと国が成り立たないとか。
自分がいないと超困るというので、主人公も渋々魔王になることに。就職先が見つからず、とりあえずアルバイトを掛け持ちしてなんとか頑張るかー、と思っていたため、ある意味、ラッキーだったとも言えます。
とりあえず、部下たちには溺愛されるパターンで。弱いから守らなきゃ!が基本。過保護すぎるけど、異世界は危険に満ちあふれているため、それくらいがちょうどいい。
お相手は考えてません。そこまでは想像が膨らみませんでした……。
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