片想い


◇恋人あり←親友←主人公。片想い。




 親友がずっと片想いしていた相手にフラれた時、俺は慰めるふりをして心の中では安堵していた。

 俺もずっと、親友のことが好きだったから。

 これで俺のことを見てくれるんじゃないかとか、失恋した今がチャンスだとか、不謹慎だと思いながらも嬉しくてしかたなかった。

 だからかな。人の不幸を喜んでしまった罰なのかな。

 親友が、片想いの相手と抱き合っている場面を目撃してしまった。どうして。恋人がいるから、ってあいつはフラれたはずなのに。

 理由を聞いて、俺は唇を噛み締めた。恋人と喧嘩したからって、どうして自分がフッた相手に慰めを求めるんだよ。

 片想いの相手にも、都合のいい男になっている親友にも腹が立った。

 でもさ、一番腹立たしいのは、好意を素直に伝えることもできずに怯えてる俺自身なんだ。

 この想いを受け入れてもらえないってわかってるから。せめて、友達でもいいから傍にいたいって思ってしまった。

 弱い俺は、自分の感情に終止符を打つこともできずに、友人面をして親友の隣を陣取っている。

 だからさ、片想いの相手にも、親友にも、文句は言えない。

 同じ舞台に上がろうともしない俺に、恋だの愛だの語る資格はないのだ。

「どうせまた、ヨリを戻すに決まってる」

「知ってる」

「お前はさ、いつまで都合のいい男になってるわけ?」

「それでも、いいんだ……。あの人の傍にいられるなら」

 傷つきながらも笑うあいつは、まるで鏡に映った自分自身を見ているようだった。

 だったら、もっと傷つけばいい。ズタズタのボロボロになって、一人では起き上がれないくらいに。そしたら、お前もあの人を忘れられるだろう?俺を見てくれるだろう?

 でも、その願いは叶わなかった。

 あいつの願いが叶ってしまったからだ。

 ようやく振り向いてもらえたと、嬉しげに親友が語る。好きだと、言ってもらえた。付き合うことになったのだ、と。

 ズタズタのボロボロになったのは、俺の方だった。

 だからさ、いい加減、あいつのことを忘れたいんだよ。

「いいですよ。俺のこと、都合のいい男だと思って利用してください。それで先輩が手に入るなら、安いもんです」

「……お前も、物好きな奴だよ」

 俺の想いを知りながらも、それでも好きだといってくれた後輩。彼の大きな腕に抱き締められながら、俺はそっと目を閉じる。

 もういいよな?

 この手を取って、お前への想いを忘れても。




***END***




◇あとがき

 唐突に降って湧いたポエミーなネタ。

 恋人あり←親友←主人公←後輩、の話でした。

 片想いでは、けっこうよくある話。

 好きで、好きで、でも臆病すぎて一歩が踏み出せないうちに、恋に終止符を打たれてしまった主人公が書きたかっただけです。

 ゆっくりと後輩君を好きになって幸せになればいいと思う。


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