僕はあなたの


◇会計親衛隊隊長主人公。
※シリアス。すれ違い注意。




 僕はあなたの幼馴染。幼い頃からなにをするにも一緒で、結婚の約束までしたほど僕らは仲良しだった。

 僕はあなたの恋人。告白はあなたから。僕もずっと好きだった、と歓喜に震える声で返事をした。

 僕はあなたの親衛隊隊長。どうせなら、気心の知れた相手がいいだろうと、僕からあなたに提案した。




 幸せな生活が崩れたのは、二年に進級してから。全寮制の学園に、季節外れの編入生がやってきたのが原因だった。

 よくはわからない理由で、あの人以外の生徒会役員がその子に惚れてしまった。彼らは徐々に仕事を放棄しがちになって、会計だったあの人はその尻拭いに奔走した。むろん、僕は恋人として親衛隊長として、あの人を支えた。

 でも、ある日、「ごめん。忙しくて、会ってる暇がなくなった。用事があるならメールして」と僕は告げられた。

 しかたのないことだと思った。あの人は多忙な毎日を送っていて、僕と会うわずかな時間だって惜しいことくらいわかっていたから。

 それに、一時はどうなることかと思った学園も、元凶が退学し、仕事を放棄していた役員たちが戻ってきたおかげで、徐々に元の落ち着きを取り戻しつつあった。だから、あなたの傍にいなくても大丈夫だと思ったんだ。

 でも、ある日、僕は気付いてしまった。あなたの隣りにいる、一人の生徒に。彼は編入生に親友扱いされたせいで、理不尽な制裁を受けていた生徒だった。

 僕も不憫に思って、隊員の子たちに頼んでこっそりと手助けしていたからすぐにわかった。

 いつの間にか生徒会補佐になっていたあの子。あなたは、あの子に楽しげな笑みを向ける。いやな予感はあったんだ。あなたからのメールは、ちょうどあの子と親しくなり始めてから送られてきたものだったから。

 何度もメールしようと思った。あの子は、あなたにとってなに、と。僕はもうあなたの恋人ではなくなってしまったの、と。

 決定的な言葉を聞くのがいやで、僕はなんでもない振りをし続けた。おはようと、お休みなさいのメールだけを定期的に送って、その返信が一度もなくても、まだ繋がりは切れていないんだって、頑なに信じて。

 でも、そんな僕とあなたとの関係は、まったく予想もしていなかったことが原因で崩されてしまった。

「え……父さん、それ本当なの?」

 実家からの呼び出し。元々、家業が思わしくなかったこともあったが、これ以上続けても借金がかさむばかりなのだという。

 会社と自宅を手放して、ありとあらゆるものを金に換えて、それでも借金は残った。でもそれは、時間はかかってしまうけど、働きながら少しずつ返していけば完済できる金額らしい。話を聞いた僕は思わず安堵した。

 借金に首が回らなくなって一家心中した生徒や、体を売るはめになった生徒の噂は、いやというほど聞いていたから。

 学園の学費を払い続けることはできない、働きながら通信制の高校に通ってくれないか、と父に頭を下げられた。

 あなたに相談したところで、意味がないことくらいわかっていた。ただ、悪あがきのように、僕は「話があるんだけど、会えないかな?」とメールを送った。

 一日たって携帯に届いたのは「メールじゃだめ?」という、簡素な一文だけ。「忙しいならいいや。気にしないで」と、返すだけで精一杯だった。

「――隊長。本当に、なにも告げなくていいんですか?」

 学園を去る日。見送りに来てくれた親衛隊の子たちが、目元を真っ赤に腫らしながらそう言った。僕は、そんな彼らに微笑みを返す。ちゃんと笑えているか不安になった。

「いいんだ。どうせ、僕がいなくなったことにすら気付かないだろうから。それよりも、これからあの人をよろしくね。みんなも元気で……」

 あの人の恋人である僕のことを、嫌いもせずに慕ってくれた子たち。一人一人と挨拶を交わして、僕は学園をあとにした。

 一週間前から途絶えた、おはようと、お休みなさいのメール。あの人は一度も不審に思わなかっただろうか。きっと、それに気付きもしないんだろうね。

 今日付けで携帯も解約されてしまったから、これであなたと僕の繋がりは完全に断たれてしまった。隣り同士にあった家も、すでに引き払われていることだろう。

「……さよなら」

 秋晴れの空に向かって呟く。

 さよなら、さよなら。

 僕と、あなたはただの他人。もう二度と会うことのない――。




***END***


あとがき

 チャラ男会計×健気美人隊長

 攻めは受けを巻き込みたくなくて距離を置いていた系です。愛が冷めるどころか溺愛レベル。忙しさのあまりなかなか会えなかったけど、これが終わったらラブラブするんだーvv、を目標に頑張っていたら、いつの間にか受けっ子が家庭の事情で自主退学していた罠。

 攻めは根性で受けを捜し出して復縁すればいいよ。

 脇役君は外見平凡中身大魔王で、攻めを扱き使っていました。ラブ関係はなし。

 このネタで短編を書きたかったんですけど、健気系主人公を書くのは苦手で……。というわけで、短くまとめたものを小話部屋にアップとなりました。

※追記
 かなりのご要望がありましたので、そのうちなんらかの形で続きを書く予定です。時期は未定なので、気長にお待ちください。

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