幸か不幸か


◇アンチ王道モノ。脇役生徒主人公。CPあり。




「いやぁ、鈴木君は運がよかった」

 満面の笑みを浮かべる医師。満身創痍の状態で病院のベッドに横たわる俺は、その医師からもたらされた衝撃の事実に驚愕していた。

 とりあえず、驚愕の真相を告げる前に、なぜ俺がここにいるのかを語ろうと思う。

 俺の名前は鈴木鋼(すずき・こう)。全寮制の某お坊ちゃま学園に通う高校二年生だ。平凡な容姿とちょっとだけ裕福な家。お坊ちゃま学園を卒業すれば箔がつくからと、多少むりをして通わせられている。

 家族仲は良好で、家のためになるならいいかなぁと、俺は文句も言わずに親元を離れ元気にちょっとおかしな学園で高校生活を満喫していた。

 それが脆くも崩されたのは、今年の五月上旬のこと。時季外れの編入生が、偶々同室だった俺を「親友」認定しやがったことが原因だ。

 ぼさぼさの頭に、昭和の香りがする瓶底眼鏡。どっから探してきたんだと訊ねようかと思ったほどだ。

 その瓶底眼鏡は、美形ホイホイだった。道を歩けば美形とフラグを立て、どこの乙ゲーだと聞きたいくらいあっという間に美形ハーレムを形勢していった。

 しかし、それに怒りを爆発させたのが美形どもの親衛隊だった。今の時代に親衛隊ねぇ……と俺は若干引き気味だったが、とりあえず、その親衛隊が瓶底眼鏡に制裁を開始。

 しかし、美形どもに守られた瓶底(面倒になったからこれで)はいつまで経っても無傷。親友だと言い張られ続けている俺だけが、制裁のお零れのせいで心も体もボロボロ。ついには階段から突き落とされ、病院へと運び込まれる始末となったわけである。

 そして冒頭へと戻るわけだが……。

「俺って、そんな深刻な病気だったんですか……?」

「悪化すればね。今は初期段階だから、手術と薬で治せるよ。でも、一度悪化してしまったら手の施しようがない病気でね。珍しいうえに初期症状もでないから、普通は悪化するまで気付かないケースがほとんどなんだよ」

 若いと精密検査を受ける機会なんてないからねぇ、と初老の医師はしみじみと語る。

 どうやら、俺は面倒な病気を患っていたらしい。

 発見があと一ヶ月遅かったら、手術の成功率も大幅に下がっていたとか。さらに半年遅かったら、確実に死んでいたそうだ。

 しきりに運がいいと褒めまくった医師は、両親と手術の段取りを相談するべく別室へと移動していった。

 一人病室に残された俺は茫然とする。だって、あの瓶底が編入してきた時、自分はなんて不幸な人間なんだと嘆いたのだ。拒否しても拒否しても、親友だと言い張って俺を傍に置きたがる瓶底を憎悪するほどに。

 しかし、彼は俺の救世主だったようだ。むろん本人にその自覚は皆無だろうが。

 俺は制裁を受けなかったら、半年後には死亡していた。突きつけられた事実に、そのあまりの皮肉さと幸運に、俺はただただ茫然とするしかなかった。




 俺が病院を退院したのは、それから半年経ってのことだった。元々の怪我のこともあるが、手術後の経過を見るために慎重なほどの検査を重ねた結果だ。しばらくは薬の服用や定期的な検査が必要だが、通常に生活してもなんの問題もないらしい。

 俺がいじめに遭っていたことを知った両親は、箔なんかどうでもいいからと、普通の公立高校に編入させてくれた。出席日数の関係で留年するはめになったけど、まあそれはしかたないことだと諦めた。

 あとで聞いた話だが、俺が入院したあとの学園は、それはそれは酷い有様だったらしい。唯一、俺のことを親身になって心配してくれた先輩が、苦笑しながら教えてくれた。

「鈴木は本当に運がよかったよ」と笑う先輩にむっとしたが、病院に運ばれた直後、顔を真っ青にしてすぐに駆けつけてきてくれたことや、入院中に何度もお見舞いにきてくれたことを考慮し、睨むだけに留めておいた。

「お前が転校してさ、前みたいにすぐに会えなくて寂しかったけど、安心したのも事実なんだ」

「俺に会えなくて安心したって、どういうことだよ」

「そんな睨むなって。お前が安全な場所にいるってだけで、俺はすげぇ安心なんだよ」

 俺が制裁を受けている時、傍にいてくれたのは先輩だけだった。もしも、制裁がなかったら、俺はこの人の優しさに気付けなかっただろう。きっと、仲のよい先輩後輩のまま終わっていたはずだ。

「好きだよ、鋼」

「うん。俺も好き」

 生きて、あなたに恋できたことが、一番の幸せ。




***END***


あとがき
幸か不幸かなんて、時がすぎてみないとわからないという話でした。
先輩は三年で風紀委員。ちょっとだけ男前。
主人公が制裁に遭わなかったら、自分の淡い想いにも気付かなかったはず。
病気は適当です。

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