君と俺は、水と油
◇総長×ストーカー平凡?
自己申告しよう。俺はストーカー予備軍だ。何度でも言おう。ストーカー予備軍である。
相手は泣く子も黙る総長様。どっからどう見ても優等生風(言い方を変えれば、ガリ勉)な俺とは、水と油。けっして混じり合うことはない。
もちろん、想いを告げるなどもっての外だ。ぼこぼこにされて道端に捨てられるのがオチである。
幸いだったのは、高校が総長様と同じだったことだ。うちの高校は金さえ積めば誰でも入れる成金校である。
同時に、偏差値をあげるために設立された奨学制度というものもあり、俺はこれを利用して入学した。別に総長様の進路を探ったわけではない。俺が総長様に一目惚れをしたのは、入学式の時だ。
一目で恋いに落ちた俺は、遠くからこっそりと総長様を観察した。観察するくらいなら許されるだろうと、ひたすらに見まくった。
あとをつけたり、無言電話をかけたりしないので、ストーカー予備軍を自称している。誰だって好きな人を眼で追うくらいはする。行きすぎるとストーカーになってしまうので、俺は必死に自身を自制した。
そんな俺にさらなる幸運が舞い降りたのは、二年に上がってのことだった。総長様と同じクラスになれたのだ。これで授業中も視姦……ごほん。観察できるというものだ。
しかし、不良な彼は滅多に教室に顔を見せることはなかった……。でも、俺はめげなかった。彼が教室に顔を出す度、必ず「おはよう」と挨拶をした。満面の笑みはさすがに違和感があるから、できるだけさりげなさを装う。さすがにそれ以外の会話はない。
さて、今日も挨拶したし、自分の机で予習するか本を読むか。総長様がいる時だけは、休み時間だろうが授業中だろうが水を打ったように静まり返る。うむ、勉強がはかどるな。
総長様と俺は水と油。けっして交わることはない……と思っていたら、天変地異の前触れか、ある日突然、俺は総長様に告白された。二度目の幸運到来。吐くかと思った。人間、喜びを突き抜けると気持ち悪くなるもんなんだな。
もっとも、総長様が俺に惚れたというわけではない。罰ゲームなのだ。総長様の手下っぽい奴らがそう言っていた。
罰として、クラスで一番冴えない男に告白する。交際期間は一ヶ月。もちろん、俺の都合なんてあってないに等しい。普通の生徒ならば神を恨み、場合によっては登校拒否、もしくは転校しただろう。
しかし、ストーカー予備軍の俺にしてみれば、総長様を間近で観察できる千載一遇のチャンスだ。俺は神に感謝し、一ヶ月間の皆勤を誓った。穴が開くほど観察させてもらいますとも、ええ。
そんなわけで、お昼を一緒に食べたり、放課後、一緒に帰ったり、俺は涙が出るほど幸せな時間を満喫した。本当は写真を撮りたかったけど、危険な行為はできるだけ慎みたい。代わりに、心のカメラに焼き付けますとも。
だが、問題が発生した。俺はよりによって、総長様と敵対するチームに誘拐されてしまったのだ。いや、途中まで総長様のチームの人たちだと思ってたんだよ。総長様の悪口を言い始めた辺りで、違うと気付いたけど。
あのチームの人たちは、総長様命!な人ばかりだから、彼の悪口を言うはずがない。もっと同志たちの顔を覚えておくんだった。すまない、同志たちよ。
「痛い目に遭いたくなかったら、恋人を呼び出せって言ってんだよ」
住宅地から離れた場所にある倉庫に連れ込まれた俺は、ガラの悪そうな金髪さんに凄まれていた。その周囲を固めるのも、これまたガラの悪そうな奴らばっかりだ。
まあ、総長様と付き合っている間に、カラフルな人たちにはだいぶ慣れたけど。ほら、連絡しろよ、と金髪さんに体を小突かれる。
「できません」
「はぁ?俺は、しろって言ってんだよ」
「だって、罰ゲームで付き合ってるような相手をわざわざ助けに来たりします?それに、俺としても総長様の迷惑になるようなことは回避したいんですよ」
罰ゲームの期限は、まだ十日もある。俺がトラブルに巻き込まれたと知ったら、面倒事を避けるためにさっさと罰ゲームの期間を繰り上げされかねない。そしたら、また教室で視姦……観察の日々だ。絶対に阻止せねば。
「だから、ごめんなさい。みなさんには悪いけど、俺が誘拐された事実をなかったことにしてもらいます」
にっこりと笑って、俺は目の前の金髪さんを殴り飛ばした。おお、きれいに吹っ飛んだな。全員を沈めるのに掛かった時間は、三十分くらい。
さすがに立ち上がれなくなるくらい徹底的にやるのは骨が折れる。瞬発力には自信があるが、持久力はちょっと心許ない。今度、体を鍛えようかな。
ちょうどいいところに椅子(不良さん)があったので腰掛ける。ああ疲れた。と、ここで総長様から携帯に電話が掛かってきた。
「もしもし……え、俺が誘拐された?まさか!それが本当なら、こんな風に話せてませんよ」
呻き声をあげた金髪さんに内心で舌打ち。口元に人差し指を当てると、ひぃ、と引き攣った声が漏れた。総長様に聞こえたらどうしてくれるんだ。
「ああ、今のは近所の犬ですよ。チワワの雄です。そんなことはどうでもいい?今どこにいるかって?親戚の家です。用事があって……帰りは送ってもらう予定です。ふふ、大丈夫ですよ。逃げ足は速いんで」
じゃあ、また明日。名残惜しいけど、俺は携帯の通話を切った。敵対するチームがお前を狙うかもしれないから気をつけろ、だって。ふふ、総長様に心配してもらっちゃった。
椅子(不良さん)から立ち上がって、未だに起き上がれないでいる不良さんたちに声をかける。
「報復は考えないように。次はありませんから、ね?」
少しばかりすり切れてしまった拳を撫でながら、帰りに薬局によろうかな、と呟く。
この程度の傷でなにかあったのかと勘繰られることはないだろうが、あとで腫れてしまう恐れもある。総長様に無用な心配は掛けたくない。いや、そもそも心配してもらえるとは思っていないけど。
「残り十日かぁ」
幸せな時間ほど過ぎるのは早い。わかっていたことだけど、お別れは寂しかった。でも、総長様と俺は水と油。混じり合うことはないのだ。
一ヶ月後。結局、罰ゲームというのが嘘だったと判明する。総長様の告白は本気だったのだ。それに混乱した俺は総長様を殴り飛ばし、逃走。
水と油は混じり合わないんですー、と自分でもよくわかんない言い分けを叫んだら、それはそれは卑猥な顔で、「やってみなきゃわかんねぇだろ」と言われた。孕むかと思った。男の子だけど。
「水と油は、ものすごい勢いでシェイクすれば混じり合うだろ」
「時間が経てば、また元に戻りますよ」
「そん時は、また混ぜりゃいい」
「……その発想はありませんでした」
***END***
◇あとがき
総長様は、毎朝自分に挨拶してくれる主人公が気になって、気付いたら惚れていたパターンです。
ちなみに主人公はチート野郎。勉強、スポーツともに優秀。腕っ節だって、そこいらの不良には負けません。本気を出せば殲滅できます。
ただ、性格がちょっと残念というか、ネガティブというか。総長様が自分に惚れるなんて、ないないないないない。と、考えるような人間です。なので、総長様からのガチ告白に動揺→逃亡。
罰ゲームを装ったのは、部下からの提案。いきなり告白してもふられるだけだから、まずは一緒に行動して総長のよさを知ってもらいましょう!的な感じで。
ボコられた金髪さんたちは、あとで主人公に「部下にしてください!」と集団土下座します。冷徹さに惚れたらしい。ドM軍団の誕生である。
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