ドSの美学
※ドМ会長×ドS平凡。でも攻めが出てこない。アンチ王道。
俺の名前は藍川螢(あいかわ・けい)。外見は平凡中の平凡だが、中身はドがつくほどのサディストだ。そして、同性愛者でもある。
だが、俺をそこいらのSと一緒にされては困る。俺は普通の人間を痛めつけても、楽しくもなんともない。性的に興奮する以前の問題だ。
俺が求めるのは、生粋のドМである。
生まれながらにしてのドМ。しかも、与えられる苦痛に性的興奮を覚えることに、後ろめたさや嫌悪を抱いているともっといい。
自分がマゾヒストだと信じたくない、苦痛に快楽を感じて喘ぐなんて言語道断……でも、痛みを、それによって引き摺り出される快楽を求めずにはいられない。
そんな狭間で揺らいでいる奴を、精神的にも肉体的にも調教し、俺なしでは生きていられないようにするのが夢だ。
だが、現実は悲しいかな。このホモ学園で有名な向日葵学園高等部にわざわざくそめんどくさい試験を受け、特待生として入学してはや一年。二学年に進級しても、未だ好みのドМに巡り合うことはなかった。
それなりに粒揃いではあるのだ。柔道部の部長や、図書委員会の副委員長、同じクラスの学級委員長や、生徒会副会長の親衛隊隊長など、確かに俺の琴線に触れる者はいた。
だが、決定的ななにかが足りない。そう、みんな従順すぎるのだ。与えられる苦痛と快楽に従順すぎるのだ。少しは歯向かってみろと言いたい。俺が求めているのは、強気なドМなのだ。
そして最近、俺の憂鬱事情に拍車をかけるできごとが起こった。
一学期の途中から、二年Aクラスに編入してきたマリモ(別名、宇宙人とも言う)の存在だ。マリモは美形ホイホイというスキルを習得していたようで、親衛隊持ちの名立たる美形たちを陥落させていった。
そこまでは、まだいい。なにがどうしてそうなったのかは不明だが、奴はたまたま席が隣だったということで、この俺様を“親友”認定しくさったのだ。俺は言葉の通じない親友なんていらない。親友はちゃんとした人間がいい。
しかし、相手は話の通じないマリモ。もっさりヘアと瓶底眼鏡ルックで、今日も俺にまとわりついて離れない。いい加減、どっかの無人島に置き去りにしてやろうかと思う。
「なぁ、螢!食堂行こうぜ!」
「……俺、人が大勢いるとこは好きじゃないんだよね」
「そんなこと言ってると、人見知りは治らないぞ!それに大丈夫だって、俺がついてるからさ!」
むしろ、お前がついているから食堂に行きたくないんだが。うんざりしていると、マリモの背後に立っている同じクラスの一匹狼君と視線が合った。他のクラスメイトならばメンチを切られるところだが、狼君は一年の時に調教済みだ。
強気なところは好みなんだが、いかんせん苦痛に快楽を感じれる体質ではないらしい。本格的に改造してやることも可能だったが、俺が欲しているのは生粋のドМ。後天的ドМではない。まあ、それなりに楽しめたし、今ではいいどれ……友人だ。
「みんなでわいわい食べる方が、絶対美味しいって!」
……こいつ、調教してやろうかな。
値踏みするようにマリモを見つめていると、背後の狼君がぷるぷると震え出し始めた。ああ、自分が調教された時を思い出してるのかな。一匹狼の不良君が泣いて哀願する姿は、なかなかクルものがあったよなぁ。
「ほら、行くぞ!」
俺の手首を掴んで、強引に歩き出すマリモ。
うん、やっぱり調教コースはねーわ。俺にだって好みはあるんだ。なにが悲しくて、こんなもっさりマリモを調教しなきゃならん。調教するなら美形がいいに決まっている。マリモは無人島放置コース決定だな。
しかし、マリモに引き摺られながら食堂に向かっている俺は知らなかった。
そこで、運命の相手に巡り逢うことになるだなんて――。
***END***
あとがき
前回に引き続き、攻めが出てこない罠(笑)
ちなみに、螢はちゃんと相手に了承を取ってから調教しています。ただ、一匹狼君は例外で、八つ当たりで蛍をボコボコにしようとしたので、お仕置き代わりに調教してあげました。
そんなドSな蛍ですが、実はまだ処女。その手前までは色々やっていますが、はじめては本命のために残してあります。
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