たぶん、あれだ。存在感がなかっt


◇会長親衛隊長視点。アンチ王道。喜劇。




「――以上の理由から、我々は生徒会会長をリコールします!」

 全校集会の壇上から、副会長の声がろうろうと響く。その会長様の親衛隊長である僕、若石燕(わかいし・つばめ)はそれを呆れた顔で眺めていた。

 会長がリコールされる理由は、仕事を放棄した挙げ句、親衛隊員を生徒会室に引っ張り込んでいかがわしいことをしていたから、というもの。

 初めは疑いの眼差しを向けていた生徒たちも、一ヶ月経っても姿を見せない会長に、もしかして本当なのでは?と、考えるようになっていたらしい。各委員会の委員長並びに、全校生徒の三分の二がリコールに賛同したとのことだ。

「反論は?」

 副会長が会長代理として壇上に立っていた僕に、挑戦的な眼差しを向ける。ってか、編入生のケツを追っ掛けて仕事を放棄してたのはお前らの方だろうが。

 まあ、ほっといたら絶対に面白いことになるなー、と思って傍観していた僕も僕だけど。だって、恋いに盲目な奴らを説得って、どう考えても面倒じゃない。

 さっさとリコールを了承しろという視線に、僕はしかたなく壇上に立った。ちょっと、マイクの位置が高いんだけど。

「えー、とりあえず僕に言えることは一つ。一ヶ月前の全校集会でのことを思い出してみなよ」

 僕の声に、全校生徒が首を傾げる。いやいや、覚えておこうよ。けっこう重要なことを言ってたんだからさ。あと、副会長たちも考え込まない。あんたら、一応、同じ生徒会役員なんだから。

 さて、どうトドメを刺してやろうか、と思っていると、まさにタイミングを計ったかのように体育館の扉が開いた。そこから姿を現したのは、アロハシャツ姿の会長。ご丁寧にグラサンまでしてやがる。

「校舎がもぬけの空だったから、びっくりしたぞ」

 悪いなー、と言いながら口笛でも吹きそうな勢いで、会長は壇上に登ってくる。そして、唖然としている副会長の肩を叩いた。

「いやー、アメリカはよかったぞ。一ヶ月と言わず、一年くらい留学してもよかったな。ま、こっちでは留年扱いにされちまうからむりだけどなー。それに、俺はアメリカで暮らしてわかったことがある。米・味噌・醤油は三種の神器だった。三日で禁断症状が出たぞ。俺は慌てて日本食を扱ってるスーパーに走ったね。でも、輸入品だから関税がかかって高いのなんの。持参してきゃよかったって、痛感したわ」

 ここでようやく、生徒たちも一ヶ月前の全校集会を思い出したらしい。満面の笑みでハイタッチしている者がいたと思ったら、うちの子たちじゃないか。

 ざまあ見ろーって声が聞こえる。リコールなんてさせません!って、いきり立ってたもんな。説得するのは簡単だったけど。事実を言うだけで、ぽかーんってしてたからな。って、お前らも忘れてた口じゃないか。

 とりあえず、僕はトドメを刺すべく口を開いた。

「えー、会長様は一ヶ月間、留学していました。なので、一連の噂は事実無根。リコールは了承できません」

「な、だったら、いったい誰が全員の仕事を……!」

 墓穴、墓穴掘ってるよ副会長(笑)。私たち仕事してませーん、と叫んでいるようなものだ。その言葉に答えたのは、僕ではなく会長だった。

「仕事?俺はちゃんとしてたぞ。さすがに、俺の仕事をお前らに押しつけられないからな。うちの隊長にメールで送ってもらってたんだ。しかし、妙に数が多くてなー。せっかくだから観光もしようと思ってたのに、どこにも行けなかったぞ。まあ、あれだな。留学のついでじゃなくて、ちゃんと観光で行けってことだな。あ、夏休みの親睦旅行はガラパゴスにしようぜ」

 会長は実に生き生きとした顔で告げた。役員たち全員での親睦旅行の行き先を、無駄に悩んでたもんね。そして、思い出したように副会長の顔をぺたぺたと触る。

「お前らの方こそ、大丈夫だったか?多いようなら俺に回せって頼んどいたけど、それでも大変だっただろ?しかし、なんでこの時期にあんなに書類が多かったんだろうな?」

 あ、副会長が砂になってる。ちなみに、会長は嫌味で言ってるわけではない。これが素なのだ。天然なのだ。

 普通、どう考えても一学期の半ば頃にあんな大量の仕事があるわけないだろ。締切がやばいのは全部送れって言われてたから、文字通り全部送ってやったんだよ。

 だって、仕事が滞ると、それが馬鹿どものせいでも、回り回って会長の監督責任になっちゃうからね。仕事さえちゃんと提出できれば、問題はなし。それに、簡単なものは僕がやっちゃってたし。

「そういや、これってなんの集会なんだ?」

「君はさ、美形のくせに昔から存在感がなかったよね」

 溜息をついて、僕は副会長の手から奪ったリコールの署名を引き裂いたのだった。

 もっとも、どうせ君のことだ。リコールされかかったという事実を知っても、「お前ら、馬鹿だなー」と笑い飛ばしてしまうのだろうけど。





(そんな君だから、僕は想わずにはいられない)




***END***




◇あとがき

 実は、会長→←親衛隊長の両想いと気付かない、片想いなお話でした。

 とりあえず、恥ずかしさのあまり穴があったら埋まってしまいたい副会長(笑)。ちゃんと、全校集会で言いましたよ。一ヶ月間、短期留学してくるって(親衛隊長談)。

 会長は美形なのに、なぜか存在感がない人物です。それと、編入生パニック★があったせいで、余計に忘れ去れていました。仕事が滞っていなかったから、副会長たちも会長は学園にいるものだと思っていました。

 題名の尻切れはわざとです。

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