腐男子にご用心
◇アンチ王道??残念腐男子。腐男子の扱いが酷いので注意。
「気に入った。俺のセフレにしてやる」
「なっ、誰がなるか!」
俺、藤堂世里(とうどう・せり)は、じたばたと暴れる編入生を両腕で抱き締めた。同じく編入生を気に入ったらしい副会長らの抗議を聞き流していると、騒ぎを聞きつけた風紀委員らがやってくる。うむ、予定通りだ。
「ちっ。ここじゃ、ゆっくりできねぇな。生徒会室に行こうぜ?」
できるだけ甘ったるい声で囁いて、ぎゃあぎゃあとうるさい食堂の扉を閉める。
暴れる相手を口説くふりをしながら生徒会室へと直行すれば、副会長、会計、書記の三人は自分の椅子に座り、先ほど騒ぎの中心となっていた季節外れの編入生、川縁守(かわぶち・まもり)は遠慮もなしにソファーへ腰を下ろした。俺も開いているソファーに座り、しみじみと目の前の人物を眺める。
「しかし、何度見ても見事な鳥の巣ヘアだな……」
「うるせぇ。誰も好きでこんな格好してるわけじゃねぇんだよ」
先ほどの天真爛漫な性格とは打って変わり、素行のよろしくない不良のような態度を取った守は、テーブルの上に足を投げ出した。
それを、先ほどまでちやほやしていた副会長が眼鏡のフレームに手を当てながら抗議する。
「行儀が悪いですよ」
「少しくらい大目にみろよ。こっちは大声を張り上げっぱなしで疲れてんだ」
ぐったりとする守に、興味津々といった顔で話しかけたのは、軽薄そうな外見の会計だった。
「それで、上手く引っ掛かりそうなのー?」
「ん、ああ。もうちょっと待て。あいつが来てから――」
守が言い終える前に生徒会室の扉が開いた。顔を見せたのは、風紀委員長である。堅物と有名な奴の眉間には、くっきりとシワが刻まれていた。
「……総長。いくらなんでも、あれはやり過ぎでは?」
「ばーか。あれくらいやんねぇと意味ねぇだろ。それよりも、そっちの方は上手くいったか?」
「ええ。今、下っ端に画像の確認をさせています。不自然に俯いている奴、もしくは“萌え”“王道”等の台詞を叫んでいる奴を見つければいいんですよね?」
「ああ」
実は、食堂には小型カメラを装備した数名の風紀委員が潜んでいた。そして、食堂内をくまなく撮影していたのだ。
「でもさぁ、それで本当に“腐男子”って奴が引っ掛かるの?」
会計の半信半疑といった言葉に、守は頷いた。その表情には、実にあくどい笑みが浮かべられている。
「奴は絶対に引っ掛かる」
そもそもの発端は、守が総長を務めるチームが“腐男子”なるものの被害に遭ったことだ(風紀委員長や副会長、書記、会計も同じチームの一員である)。
盗撮被害。情報攪乱。好きでもない相手との、望んでもいないラブハプニング等々。情報担当の会計が調べてみれば、チームに出入りしていた、“腐男子”というよくわからない趣味をもった人物の仕業であることが発覚した。
そして、その腐男子は守の幼馴染みである俺が通う学園に潜伏しているらしい。
そういわれてみれば、うちの学園でも似たような被害が報告されていた。犯人は未だ見つかっていない。ならば、協力してそいつを捕まえよう、ということになったのだ。
餌は、腐男子の大好物だという“王道編入生”。よくはわからないが、相手の人となりを知る守は「あの馬鹿なら絶対に食いつく」と自信満々に断言した。
俺たち生徒会役員がかかわることで、一時的に学園が混乱するのは問題だったが、盗撮等の被害はさすがに放置したままではおけない。
「でもさぁ、そいつを見つけて総長はどうするつもりなのぉ?」
「んー?」
「厳重注意?それとも、ぼこっちゃう?」と、会計がにこにこ顔で訊ねる。そういや、滅多に会えない総長(守)が学園に編入してくるのだと、嬉しげに語っていたな。
外見はチャラ男だが、中身は甘えたな子供である会計に手招きすれば、守を気にしつつも俺の隣に座る。うい奴め。
「傍観者を気取っていたからなぁ……表舞台に引き摺り出して、可愛がってやるんだよ」
意地の悪い笑みを浮かべる守の眼は、獲物を狙う肉食獣のようにギラギラと光っていた。こら、そんな眼を向けるな。会計が怯えるだろうが。しがみついてきた会計を宥めつつ、俺は口を開いた。
「まあ……ほどほどにな」
自業自得なので、俺は傍観者に徹させてもらおう。いや……でも、確か俺のところの親衛隊長が、食堂で「王道キタコレ!」と叫んでなかったか?
ちなみに書記がずいぶんと大人しいなと思ったら、お気に入りのクッションを抱き締めながらすよすよとお昼寝中だった。メシ食ったあとって眠くなるもんな。
***END***
あとがき
食堂での王道展開は腐男子をあぶり出すための罠でした(笑)。
会長×会計と見せかけての、会計×会長。うい奴め、と愛でていたところを押し倒されて食われてしまえばいいよ。
あと、総長様は腐男子を食う気まんまんです。腐男子は外ではオープン腐男子、学園内では隠れ腐男子に徹しています。趣味といっても、やりすぎはあかんよ、という話でした。
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