宰相補佐最強伝説


◇異世界設定。主人公最強モノ。脇道でやや王道展開?




 私は、ソラ・クルーゲン。アイカ王国宰相補佐を務めている。年齢は二十七歳。髪の色は灰色で、瞳も同じ。容姿は普通だろう。アカデミーを首席で卒業したため、宰相補佐という高官職を得ている。

「ニタ様。紅茶のお代わりはいかがですか?」

「い、いただきます」

 そんな私は現在、宰相補佐室でのんびりと午後の休憩をとっている。目の前に座るのは、金髪碧眼の愛らしい少年。ニタ様だ。

「お茶うけが私の作ったクッキーでもうしわけありません。茶葉は宰相閣下の部屋から奪ってきたものですので、味は保証しますよ」

「いいえ!とっても美味しいです!あの、お母さんが焼いてくれたクッキーと同じ味がします」

 どうやら、私の手作りお菓子は気に入っていただけたようだ。ニタ様は陛下の三番目の公子にあたられる方だが、先日まで地方の農村で暮らしていた。

 母親は三年前、ニタ様が十二の時に他界。以来、近所から援助を受けながら細々と暮らしていたのだという。

 そんな中、王都にやってきた際、たまたまお忍びで下町観光中の陛下とこんにちは→十五年前、一目惚れして押し倒した侍女(王妃様付き)にそっくり→もしや自分の子供では?→魔術の塔で血筋の確認→自分の子だった!→王妃様ご乱心→私の可愛い可愛い侍女が辞めたのは貴様(陛下)のせいだったのか!→陛下瀕死→なんだかんだあって王宮に第三公子として引き取られました。←今ここ。

 波乱万丈ですね、ニタ様。でも、王妃様が大歓迎状態でよかったじゃないですか。

 まあ、第一王子様からも第二王子様からも溺愛されて、終いには近衛の新人騎士、魔術師団の新人魔術師、王宮付きの新人文官など、その他もろもろを陥落させ、ハーレム?(全員男だけど)を形成しちゃったのは困りものだが、本人がとってもいい子なので私的に不満はない。

「それはよかった。私もちょうど手隙ですので、ゆっくりしていってくださいね」

「……ありがとうございます。でも、ソラ様に迷惑がかかるんじゃ」

「ふふふ。お気になさらないでください。昨日からあの方々の姿を見ていないでしょう?」

「あ、そういえば」

 嫉妬深い男たちは、あろうことかニタ様と仲良くなった王宮の者たちを排除していたのだ。むろん、解雇させられる前に私がなんとかしたが。

 それをニタ様は自分のせいだと思い込み、必要以上に人とかかわることを止めてしまった。お労しい。

「オイタがすぎたあの方々には、少しお灸をすえて……って、閣下。用があるならば、呼び鈴を鳴らしてください」

「いや、すまん。呼び鈴を壊してしまってな」

 入室してきたのは、四十代前半の美丈夫である。私の上司、ユーリシア・ヨランダだ。筋骨隆々とした姿は、文官服を着ていても宰相とは思えない。

 唯一、長く伸ばされた漆黒の髪がそれらしくはあるが……十人中十人が、武官だと答えるだろう。

「またですか。いい加減にしてください」

「最近の呼び鈴は貧弱で困るな」

 鉄で作られてある呼び鈴を貧弱と言われても困る。

「ニタ様。少し、ソラをお借りしてもよろしいですかな?」

「は、はい!」

 仕事の話ならば、確かにニタ様の前では憚られる。別室へと移動すると、ユーリシア様が口を開いた。

「実は、昨日から殿下たちの姿が見えぬのだ。王妃様は気にせずともよいとおっしゃっていたが、なにか聞いているか?」

「はい。妃殿下の命令で、私が東の森に吊るしてまいりました」

「………………すまん。もう一度、言ってくれるか?」

「はい。詳しく言いますと、魔術が使えないように拘束し、東の森の適当な木の枝に吊るしてまいりました」

「あそこは確か低級しか出没しないが……スイムがいたばずだ」

 スイムとはぶよぶよとした透明な体を持つ魔物である。移動速度は遅いが、一度体内に取り込まれてしまうと厄介だ。炎でしか退治できないため、出会った時は真っ先に逃げることをお勧めする。

「ええ。ですが、ギリギリの高さで調整してありますからご安心ください。ついでに、途中で拾った魔物の遺体を足許に置いて、もしもスイムに捕まったら、自分がどのように美味しくいただかれるか間近で観覧できるようにしておきました。かなりの大物でしたから、今頃は大量のスイムが嬉々として群がっているでしょうね」

「…………」

「しかも、妃殿下のご命令で、その光景を記録しております。あとで笑いの種……ゴホン。きっちり反省したかどうか確認なさりたいとのことでした」

 ちなみに私も自分用に複写する気満々だ。いざという時の脅迫用として有意義に使わせていただこうと思う。

「……確認するが、お前が一人で拘束したのか?」

「もちろんです。しかし、みなさん軟弱で困りますね。一応、それぞれの得意分野で勝負を仕掛けたのですが」

「近衛の騎士と、魔術師団の二人は将来を嘱望されているのだが……」

「あの程度で、ですか?」

 思わず鼻で笑ってしまった。一応、こちらは年上なので、相手が攻撃するまで待ってやったくらいなのに。あまりのあっけなさに、溜まりまくったストレスの発散にすらならなかった。

「近衛と魔術師団も落ちたものですね」

 今度、それぞれの団長たちに会ったら嫌味の一つも言ってやろう。




 翌日、殿下たちは捜索隊によって助けだされ、無事に王宮に戻ってきた。以来、顔を合わせる度に「ごめんなさいごめんなさいもうしません」と土下座されるようになるのだが、鬱陶しいことこの上ない。

 一部始終を記録した、「絶叫!スイムがやってくる」は、それぞれ王妃様の書棚と私の書棚に納められたのだった。




***END***


あとがき

 たまに異世界モノが書きたくなります。これは短編用に考えていた話なのですが、攻めも決まっていない状態なので、こちらに載せました。

 展開と攻めが決まったら、短編の方に移行して続きを書きたいと思います。

 ちなみに、ソラ君は、近衛騎士団や魔術師団、その他もろもろから「ぜひうちに!」と熱烈ラブコールされましたが、筋肉達磨がうようよしているムサイ職場はいやなので宰相補佐になりました。

 宰相付きだと、美人侍女さんがお茶を入れてくれるので。

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