こんな回避方法もありだと思う
◇平凡男子高校生主人公。恋愛要素皆無。
見てしまった。そりゃもう、ばっちりと。
俺の名前は、相澤弘海(あいざわ・ひろみ)。とある偏差値ほどほどの男子校に通う、高校二年生だ。そんな俺は、とある日の放課後、できれば見たくなかった光景を目撃してしまった。
いわゆる、不良という奴らが数名。馬鹿笑いしながら、俺の下駄箱に手紙を突っ込んでいた。
聞き耳を立てていると、どうやら不良同士の賭けに負けた一名が罰ゲームで同学年の男子に告白するらしい。その生け贄に選ばれたのが、俺というわけだ。登校拒否するぞ、こら。
罰ゲームに負けてしまったのは、輪の中心にいる銀髪の不良だった。うちの学校じゃ、知らない者はいないと言われている、“銀狼”だ。……うん、痛い通り名だな。俺だったら、髪を黒に染めて転校するぞ。
「パシリが欲しけりゃ、適当に捕まえればいいだろうが」
「いつも入れ食いの銀狼君が、好きでもない男の子を口説くっていうのがいいんじゃん。その子を惚れさせるまでが罰ゲームね。どんな子が来るか楽しみだなー」
「悪趣味だな」
「賭けに負け人が悪いんですー。ねー、みんな」
赤髪のチャライ不良に、銀狼を除いた全員が笑い声で唱和する。しばらくがやがやと騒いでいた不良たちは、銀狼をからかいながら帰って行った。
それを階段脇から見ていた俺は、気配が完全に消えるのを待って自分の下駄箱へと急ぐ。やはり、見間違いではなく、俺の靴の上に真っ白な封筒が鎮座していた。
「さあて、どーしましょ」
中身を見てみれば、“明日の放課後、体育館裏で待ってます”と、意外にきれいな字が綴られてあった。
馬鹿正直に体育館裏に向かったら、パシリ決定コースだ。いくらイケメンでも、男に口説かれるなんてごめんである。ましてや、それを笑いのネタにされるなど。
「かといって、他のとこに放り込むのもなぁ……」
さすがに、俺はそこまで非道ではない。どうしたものかと思った瞬間、俺は幼馴染みであり、悪友でもある友人の顔を思い出した。携帯で連絡すれば、数回のコール音のあとにあいつの声が響く。
『もいもいー』
「なんだその応答は。お前、いま家?」
『うんにゃ、溜まり場ー。弘海もこっち来る?』
「今日は連ドラの再放送があるからむりだ。それよりも、前に銀狼を食いたいって言ってたよな?」
『うん。あの生意気そうな面をぐっちゃぐちゃにして××に×××して、××××――』
「はいはい、周りの子たちが怯えるから止めなさい。実はその銀狼君にラブレターもらっちゃったんだよね。しかも、罰ゲームで、っていう最悪のパターン」
『ちょ、なにそれウケる。あいつら、そんなくだらないことやってんの?』
「まったくだ。だから、手紙を上から下に入れ直してもいいか?」
『大歓迎!やべぇ、道具揃えなきゃ!おーい、俺、今日は帰るわー』
「あー……相手は処女だと思うから、ほどほどにしてやれよ」
大興奮しているらしい悪友に、俺は心の中で銀狼に合掌した。悪友は外見平凡だが、とある不良チーム(しかも、たいへん強い。銀狼のとこより強い)の総長だったりする。しかも、ドのつく変態だ。だが、銀狼に同情はしない。自業自得である。
「おーい、って聞いてねぇな……」
まあ、用件は告げたし問題はないだろう。というわけで、俺は真っ白な封筒をすぐ下の下駄箱に放り込んだ。
悪友の名前は、丹川遊歩(あかがわ・ゆうほ)。小学生の時から今まで、同じクラスになる度に席が前後ろという切っても切れない関係だ。
「さーて、帰るか」
連ドラが俺を待っている。
後日、満面の笑みを浮かべた悪友と、腰に手をあてながらよろよろと歩く銀狼の姿があった、とだけ言っておく。
***END***
あとがき
このあと、悪友と銀狼は正式にお付き合いします(笑)
不良からの告白イベントですが、こんな回避方法もあっていいと思う。主人公は悪友君のチームの苦労性副総長といい仲だと楽しい。
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