耐えられません!
◇アンチ王道で、平凡脇役主人公。
※衛生的に不快な表現が入ります。ご注意ください。
「もう耐えられない!」
俺は食堂のど真ん中で叫び、コップの水をとなりの席に座っていた編入生の頭にぶちまけた。
当然、辺りは喧噪に支配され、同じテーブルについていた生徒会役員やら同じクラスのイケメンやらから罵倒される。だが、耐えられないものは耐えられないのだ。
俺の名は、佐藤遊離(さとう・ゆうり)。ことの始まりは、季節外れの編入生(見た目マリモ)と同室になったことだ。
このマリモはイケメンホイホイだったようで、生徒会を始めとする名だたるイケメンをホイホイした。そのままマリモ共々ゴミ箱に捨てれたらよかったのだが……。
うちの学園は、人里離れた山奥に建てられた全寮制の男子校。世間から隔離されているため、なぜかは不明だがイケメン崇拝の親衛隊なんていう不可思議な組織まである。
彼らによるイジメも勃発しているのだが、それはまだいい。俺は逃げ足が速いので、今のところ被害は机と下駄箱だけだ。
だが、俺にはどうしても許せないことがある。
「な、なにすんだよ遊離!」
ずぶ濡れになったマリモは、泣き真似を始めたがそんなことはどうでもいい。俺は視線を奴の頭部に向けた。
「洗剤……いや、ここは漂白剤も必要か?ちょっとウェイターさん。とりあえず、清掃用具一式を貸してください」
惚けているウェイターに声をかけるが、いまいち反応が乏しい。早くしてよ、と思っていると俺はあることに気づいた。
「くそっ。水をかけたのは失敗だったな。奴に絶好の繁殖場所を提供しちまった……」
「あなた、なにを言ってるんですか?」
困惑しながら声をかけてきたのは、潔癖で有名な副会長(和風美人)だった。マリモ信者だが、この人だったら俺の苦しみをわかってくれるかもしれない。
「実は、見ちゃったんです……マリモが風呂に入っている時に」
辺りがしんと静まり返る。みんなに注目されたマリモは、「人の風呂を覗くなんてサイテーだ!」と叫んでいる。誰が貴様なんぞの貧相な体を見たがるか。
俺はマリモの――頭を指さした。
「あいつの鬘に白カビが生えていたのを!」
瞬時に、マリモの周囲に空白ができた。あ、よかった。俺の感覚は普通だったんだ。
「鬘を洗った形跡がないことがずっと気になっていて……忘れ物に気づいて洗面所に入った時、そこに置いてあった鬘を興味本位で見たら……裏側に白い、白いものがびっしりと……っ!」
あの時の驚愕は忘れたくても忘れられない。例えるならば、暖かい季節に一ヶ月ほど放置してしまったカフェオレに気づいた時のようなものだ。カフェオレって一ヶ月放置すると、ミルクの部分が分離して白いキクラゲみたいな物体ができるんだぜ。
「それを平気でかぶっているお前には、もう耐えられない。悪いが、それをどうにかしない限り俺に近づかないでくれ!」
自分の頭に白カビが乗っていることを指摘され、さすがのマリモも顔を真っ青にした。しかし、マリモは慌ててそれを否定する。
「そんなわけないっ。白カビなんてひどいことを言うな!」
「京夜(きょうや)ー!」とマリモは叫び、慰めを求めて副会長に抱きつこうとした。が、それは副会長の華麗なステップにより回避される。そして、マリモはそのまま地面にスライディングした。その周囲にいたイケメンたちも、顔を真っ青にして距離を取る。
「薫(かおる)……。申しわけありませんが、私にはどうしても耐えられないものがあるんです。それは、“不潔”“不潔”“不潔”!外見がマリモであっても、清潔であれば問題はなかったのに……!」
あ、副会長もマリモに似てると思ってたんだ。そうこうしているうちに、副会長は一部の生徒たちに向かって叫んだ。
「消臭部隊整列!一斉にファブ!」
シュッ、シュッ、シューッと、マリモ目掛けてファブ○ーズが噴射した。おお、これが噂に名高い副会長率いる消臭部隊か。
そして、ファブでさらにぐしょぐしょにされたマリモは、消臭部隊によってどこかへと連れていかれてしまった。きっと、鬘ごと丸洗いされるのだろう。
「副会長。見事なファブでした」
「ありがとうございます」
「ところで、マリモの鬘からうっすら漂う刺激的な香りには気づかなかったんですか?」
潔癖で有名な副会長なら、気づいてもおかしくはないのに。首を傾げると、ほんのりと頬を染めた副会長が「花粉症で……」と教えてくれた。
マリモの風呂は覗きたくないが、副会長の風呂は覗いてみたいと思うこの頃。新しい恋の予感です。
***END***
あとがき
もしも、編入生が鬘の手入れを怠っていたら、の巻きです(笑)
主人公は受けで書き始めたけど、平凡攻めでもいいかもしれない。とりあえず、相手は副会長様で。
マリモはこのあと、鬘を取り上げられて全身丸洗いされました。
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