僕らの隊長様


◇会長親衛隊副隊長主人公。恋愛要素皆無。




 僕の名前は金成空(かなり・くう)。とある全寮制の学園に通う、男子高校生だ。

 学園には美形の人たちを崇拝する親衛隊という組織があるんだけど、僕はその生徒会長様の親衛隊に所属している。恋愛感情とかではなくて、単に友人に誘われたっていうのが真相。

 そんなことを言っても、目の前の人たちは納得してくれないだろうなぁと、僕は達観した眼差しを窓の外へ向けた。ああ、ほんとにいい天気。

「どこを見てるんです?ちゃんと話は聞いていたんですか?」

 イライラを隠そうともせずに僕を睨んでくる副会長様。美形ってどんな顔をしても美形だからお得だよね。どうして僕が副会長に責められているのかというと、最近うちに編入してきた生徒への制裁疑惑がかけられているからだ。

 放課後の生徒会室に呼び出されたのは、会長様の親衛隊長である加賀美先輩と、副隊長である僕。ちょっと困惑気味の編入生は、おろおろと僕らを交互に眺めていた。

 というか、この子自体はとってもいい子なんだよねー。それを役員様方が変に親衛隊を警戒して、騒動を大きくしているというか。隊長もやれやれって感じの表情をしてるし。

「聞いていますよ。ですから、証拠を出してくださいと言ったんです。まさか証拠もなしに退学にできるとお思いですか?」

「思ってませんよ。だから、自主退学を命じているんです」

「命じる?なんの権限があって?あなた方は、生徒会役員というだけで、教師でも理事会役員でもないんですよ」

 僕は横目で加賀美先輩を窺った。ああ……これはかなり頭にきてるなぁ。案の定、加賀美先輩の口調ががらりと変わった。

「っていうか、別にそこのバ会長が編入生に惚れたところで、俺は痛くも痒くもねぇんだよ!」

 外見は美少女ってくらい可愛いんだけど、口調だけは非常に男っぽい。というか、ガラが悪い。役員の皆様もぽかんとしてるよ……。

「お、お前……その性格……」

 こっちを指差す会長様に、加賀美先輩は鼻を鳴らした。

「こっちが地だ。お淑やかにしてた方が、チワワ(隊員)からの受けがいいんだよ。っていうか、うちの可愛い可愛い目に入れても痛くないくらい可愛い奴らに冤罪をかけやがって!!覚悟はできてんだろうなァ!」

 全員の、説明を求めるような視線がこちらへと向けられる。溜息をついて、僕は口を開いた。

「加賀美隊長は……無類の可愛いもの好きなんです。だから小柄な子が多い会長様の親衛隊に入ったわけで、本当はどこでもよかったそうですよ。とりあえず、うちの隊は制裁には加担していませんから。制裁したものならば、隊長のお説教が待っていますからね。正座の挙句、お仕置きと称してコスプレを強要されるので、今のところ禁を破った隊員は一人もいません。……ちょっと、隊長。口惜しそうにしないでくださいよ。そんな目で見られても、僕は絶対にしませんからね」

 あ、加賀美先輩が膝をついた。そして、なぜか会長様を睨みつける。

「顔か。やっぱり、顔か。この顔で命じれば、どんな服も着せ放題なのかぁああああ!!」

「落ち着いてください、隊長。少なくとも僕は全力で拒否します」

「だって、おまっ、この顔や身長が俺のもんだったら、酒池肉林も思いのままでっ、チワワ侍らせ放題の食い放題……!」

「はいはい」

「いつも黄色い声を浴びやがって。羨ましいんだよバ会長め!」

「どうどう。うちの子たちに、隊長にも黄色い声をあげてくれるように頼んであげますから」

「そんな同情いらねぇよ!」

 食い放題は別にしても、侍らせ放題は実現できているからいいじゃないか。慰めるように背中を撫でれば、加賀美先輩は会長様に向かって指を突きつけた。

「覚えてろよ。今度から、厳つい野郎どもに頼んで“バ会長抱かせろー!”って叫ばせてやる!」

 そんな捨て台詞を残し、加賀美先輩は生徒会室を飛び出した。とりあえず、役員の皆様が茫然としている間に、僕もとんずらしようと思う。



***END***


あとがき

 とりあえず、隊長に最後の台詞を叫ばせたかった。

 隊長はあんなんですが、隊員たちからは慕われています。猫は被っているけど、興奮するとすぐに剥がれるので、隊員たちはみんな素を知ってます。

 隊長は、外見可憐な中身肉食獣です(笑)

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