親衛隊の実態・とある新聞部員の取材記録


◆新聞部員主人公。恋愛要素皆無。アンチ王道。


 こんにちは。俺の名前は、鈴木喜六(すずき・きろく)。喜六なんて名前だけど、別に記録するのは好きじゃない。でも、文章を書くのが好きで新聞部に入っている。ちなみにぴかぴかの高校一年生。

 そんな一新聞部員である俺に、部長から取材命令がくだされた。

 曰く、親衛隊の実体を探って来い、と。てめぇ、入部したての一年になにをやらせんだよこんちくしょう、親衛隊まじ怖いと部長の胸倉を掴んで俺は泣いた。

 だって、親衛隊なんて時代錯誤もいいとこな集まりだけど、まじで怖い奴らなんだ。先輩たちにそう聞いてるし、昔の校内新聞には嫌というほどその悪辣さが記録されている。誇張六割真実四割だと言われたけど、ぜんぜん安心できない。四割は本当ってことじゃないか。

 しかも、今は時季外れの編入生が崇拝対象である生徒会役員を陥落させたことで、親衛隊はぴりぴりしているはずだ。大時化の中、素人の俺に船を出せと?

 しかし、部長は俺に首を絞められながら告げた。

「ま、まて……!それが、おかしいんだ!親衛隊の制裁が一向に始まらず、我々はペンを持ったままスタンバイし続け……ぐぅ、力を込めるな!?」

 制裁が始まらないんだったら、それでいいじゃないか。新聞のネタがない?そんなの、裏庭に住みついた猫が子を産んだことを取り上げればいいだろ。

 だが、部長命令は絶対だった。絞め落としたけど、部長は命令を撤回しなかった。しかたないので、スタンガンと催涙スプレー等、護身グッツを懐に忍ばせて俺は生徒会親衛隊の取材へと向かったのだった。まあ、なぜ親衛隊員が編入生に制裁しないのか気になるし。

 まずは、会長様の親衛隊。アポを取って訪れた先(使用されていない空き会議室)には、優雅なお茶会が開かれていた。

「……あの、親衛隊の日常を取材したかったんですが」

「うん。これが僕らの日常だよ?今、話題のスイーツを取り寄せてお茶会するのに凝っててね。会長様?甘いものがお嫌いだから、もちろん内緒だよ。編入生って、あの外見も中身も個性的な子だよね。彼のお母様って有名パティシエの○○先生って知ってた?僕らすっごいファンでさぁ。編入生にお願いしたら会わせてもらえないかなぁ。せめてサインだけでも!」

 美人な隊長さんに勧められたショートケーキは絶品だった。店の名前を教えてもらったので、あとで買いに行こうと思う。

 編入生への制裁について質問したところ、「え、会長様がいいなら別に。それに、先生の息子さんに制裁なんてそんな……!」と否定されてしまった。会長様の親衛隊は、スイーツと○○先生を崇めようの会になっていた。

 翌日。続いて、俺は副会長様の親衛隊の取材に向かった。同じくこちらも空き会議室。新聞部でーす、と言って戸を開けたところ、修羅場が繰り広げられていた。いや、修羅場と言っても恋愛のもつれ方面ではない。

「このままじゃ締切に間に合わないぞ!」「隊長、大変です。パソコンがフリーズしました!」「コンピューター室からかっぱらって来い。俺が許す」「きゃー、隊長カッコイイですぅ」「ふっ、俺に惚れたら怪我すんぜ」「朗報でーす。印刷所が明日の十時までだったら、待っててくれるそうですよぉ」「よつしゃ、粘り勝ち!」「壁で新刊なしはきついもんねぇ」「お前ら、絶対に脱稿するぞー!」……そして、全員の雄叫びが響いた。

 副会長様の親衛隊は、某イベントの常連で大手サークルだった。ちなみに、生徒会役員をモデルにしたオリジナル漫画を中心に活動しているとのことだ。

 外見チワワ中身男前な隊長様に編入生への制裁について質問したところ、「恋愛上等。むしろ、多角関係泥沼来い。生徒会はネタの宝庫だよなー」と返ってきた。イイ笑顔つきで。

 とりあえず、副会長様の親衛隊は漫画研究部に入ればいいと思う。あそこ、部員数が足りなくて廃部の危機だから。

 さらにその翌日。俺は書記様の親衛隊の取材に向かった。そこで繰り広げられていたのは、“編入生が付き合うのは誰!”を賭けたトトカルチョだった。

「今のところ、会長様が勝率トップですね。次点は風紀委員長様です」

「ちなみに隊長様は誰に賭けたんですか?」

「むろん書記様ですよ。大穴狙いの一発逆転に賭けました」

 ついでに俺も賭けてきた。編入生に連れ回されている同室者の平凡君。君も大穴狙いだね!と、男前な隊長様に褒められてしまった。ちなみに編入生への制裁は、「トトカルチョの決まりで、対象者への接触は禁止なんだよね」ということだった。

 そして、土日を挟んだ月曜日。俺は会計様の親衛隊の取材に向かった。アポを取った時に指定されたのは、なぜか中庭。首を傾げながら行ってみれば、花園では集団お見合いが行われていた。

「昔からうちの隊ではよくカップルが誕生してね。なら、定期的にお見合い会みたいなのを開いちゃおうかって思ったんだよ。ほら、きっかけがなくて話しかけられないシャイな子もいるでしょ?これがなかなか好評でね。恋人が欲しくて入隊する子もいるくらいだよ」

 ちなみに儚げ美人な隊長様は、副隊長様とお付き合いしているそうだ。恋人がほしいなら君もどう?と言われたが、今は学業に専念したいので、とお断りしておいた。

 編入生への制裁について訊ねてみると、「恋愛は自由だと思うよ。まあ、僕としては会計様とくっついてほしいけど」と笑っていた。どうやら、隊長様も書記様の親衛隊が主催しているトトカルチョに参加しているようだ。

 ――以上が、取材により判明した親衛隊の実体である。




 そして、一週間後。俺の書いた記事は校内新聞の一面を飾った。昇降口のところで新聞を片手に、orzのポーズで凹む役員様方。その周りでは、親衛隊員と思しき生徒たちが、「あ、僕らのこと載ってるよー」としごく楽しげに語らい合っている。

 一応、末尾に崇拝対象者の護衛もちゃんとやってますよ。義務だから。と書いておいた。




***END***


あとがき
 ちなみに、トトカルチョは金銭ではなく食堂の食券を賭けての戦いです。なので、先生たちもお目こぼし。

 役員らは、「こいつに制裁なんてしてみろ。ただじゃおかねぇぞ」的な啖呵を切っていたので、やべぇ俺超恥ずかしい的な感じになってます。

 トトカルチョの勝者は、もちろん主人公。編入生×同室平凡君で幕を閉じました。

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