萌花が言いにくそうに目を伏せたことで全てを悟ったゆうりは、余裕の笑みを浮かべた。

「ああ、貴方ね。ホウの家に転がり込んだ身の程知らずなゴミ野郎は」
「……言ったのか」
「だっ……て……友達だもん」

萌花が学校で浮いていることは知っていたから、友人の存在を喜ぶべきなのだろうが……どうも素直に喜べない。まさかこんなにも扱い辛い相手だとは。姿を見せたことで動き辛くなるとは夢にも思わなかった。

何か対策を練らなければと考えていた時、教壇で教師が咳払いをした。

「あー……っと。艶峻(えんしゅん)さんに片平さん、席に着きなさい。そしてそこの君。誰だか知らないが部外者は無断で立ち入らないように」
「俺は萌花のしゅ……」
「は、話をややこしくしないで……! ち、違うんです! これはその……そう、兄でして! 心配性なものだからついてきちゃって……! お、お兄ちゃん早く出ていって!」

閉め出された上に兄扱いされては堪らない。守護獣という立場なのだから、そこはしっかり区分してもらいたいものだ。

再び教室へ入り何かを唱え始める。早口で聞き取れないが、それが良くないものだとは分かった。

止めようと一歩踏み出した時だった。

「艶峻さんに妖炎(ようえん)君、早く席に着きなさい。片平さん、君もだよ」

先程とは一転、狐紅六を生徒として見ている。それも、長い間受け持っていたかのような態度だ。他の生徒も気にしていないというのはどう考えてもおかしい。妖術の二文字が浮かび狐紅六を見上げると涼しい顔で席に着いた。萌花と、事情を知るゆうり以外の学校関係者は全て彼に『化かされて』いるのだろう。さすが狐の妖怪といったところか。

「って違う! 元に戻しなさい!」
「煩いよ艶峻さん。いい加減にしなさい」
(これが妖術……まったく厄介なゴミだわ)

どうやって萌花から引き離してやろうかと考えていた時、一羽の鴉が電線に止まった。その一鳴きにただならぬ憎悪の念を感じたのは気のせいだろうか。

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