「うあー……腹減った……」

団子十本程度で空腹は収まるはずもなく……さっきから大きな音を立てている。食べすぎと言われてもおかしくはない量なのだが、普段から剣道で鍛えているリンには少なかったらしい。道行く人々が振り返るほどの大音量だ。だがリンは気にすることなく腹を押さえて歩き回る。

「どっかで飯食えないかなぁ……食えないよなぁ……」

がくりと肩を落とすも、答えてくれる者などどこにもいやしない。横を通り過ぎていくだけだ。

こうして見ると昔の京都も風情があっていいものだ。田舎はそうでもないだろうが、都会というのはどこでも人通りが激しいもの。横断歩道を渡ることさえ困難な時も多い。ビルが建ち並び自然が減りつつある時代に生まれ、こんなに空気の美味しい土地に来たのも初めてだ。それだけでも大きな体験をしていると言えよう。腹は減るが団子は旨い。この時代なら米は食べられたはずだから、飯も旨いのだろう。

ただ、一つ欲を言うのなら。

「住むとこが欲しい」

野宿など経験したことがないから些か不安ではある。正確に表記するならば一度体験しているのだが、あれは現代であってこことは違う。熊や猪だけの心配をしていればいいというわけではないのだ。

何故かよく浪士に絡まれる。先程金を寄越せと迫られたばかりだ。格好からして余程の財持ちだと思ったのだろう。だが、一銭もない。それが分かると簡単に退いてくれたので苦労はしなかったが。さすがに昨日のようなことを二度も三度も体験していては身が保たない。

行き先などあるはずもなく路頭に迷っていると、急に視界が暗くなった。またか、と右手は背の竹刀に伸びる。

「……その竹刀はしまっておけ」
「何であんたが……」

目の前に立つはリンを冷たく捨て置いた男。新選組の、名も知らぬ男。その瞳は、刃の如くリンを抉る。

「堂リンと言ったな。お前はただ親の脛を齧って生きているだけの甘えた餓鬼というわけではなさそうだ」

一歩、踏み出す。途端に体が硬直した。刃を向けられても平然としていられたのに、男が近付いただけで。圧倒的な力の差というものを、この時のリンは感じ取っていた。

「来い」
「へ……?」
「……俺と来い。行くところがないならな」

刹那、鬼が見えた。その男の後ろに、瞳を赤に染めた鬼が。

鋭く光る瞳はまるで人を殺める凶器のようだと、先を行く背を追いながら考えていた。

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