狗神憑き
狗神のお姉さんとイゾウ隊長の話。
「なぁ、イゾウ。今日こそあたしを使いなよ。ほら、どれを殺せばいいんだい? 全部かい?」
きひひ、と真っ赤な唇から牙をのぞかせながら嗤う女に、イゾウは盛大な舌打ちをこぼした。呼んでもいないのに出てくるな、とあれほど言ったのに。やはり、獣には何を言っても無駄らしい。
「すっこんでろ、犬っころ。てめぇに腑くれてやる気はねぇ」
「そいつは残念」
睨みつけられても人を小馬鹿にしたような笑みを崩さない女は、いつでも呼びなねぇ、と言い残して、イゾウの影の中へとぷりと消えた。
なんかそんな感じでイゾウ隊長が狗神飼ってるっていう。
狗神お姉さんは結いあげた黒髪に真っ黒な犬耳、大きく胸元をはだけた黒の着物を着ている。あと牙がある。
狗神は本来、母から娘へ女系で受け継がれるんだけど、狗神さんはイゾウの母親に騙されたらしいよ。イゾウは女の子だって。だから、イゾウ隊長はあんな感じなんだよ。
しばらく経ってから男じゃないか!って気づいたけど、イゾウのことを気に入ってるのでそのまま憑いてる。
でも、イゾウが少しでも弱くなったら喰ってしまおうとか言ってる。本気。
狗神は相手を殺すことで術者に益をもたらすんだけど、代償を要求(術者の血とか臓物とか)してくるから、イゾウは絶対に使わない。たまに出てきては殺す?って聞いてくるけどやらない。
イゾウが狗神を飼ってるってのはみんな知ってる。たまに呼び出しては宴に参加させたりとかお酒あげたりとかしてる。見た目だけなら綺麗なお姉さんだから、割と気に入ってるみたい。狗神さんの方もお酒のめるならそれでいいみたいだよ。
イゾウだけが面白くない。今は機嫌よく笑ってるけど、何かの拍子に目の前の家族を喰ってしまうような奴だって知ってるから。人のような形をしていても所詮は獣なんだよ。
そんな感じの狗神お姉さんとイゾウ隊長が仲良しのようなそうじゃないような関係でわいわいする話。
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