・男主はマルコの恋人
・しかし妊娠ネタというカオス。
・主人公→男主。娘→女主。で変換をお願いします。
「……はぁ」
思わず腹を押さえてため息をつく。男であるこの身に命が宿るなんて、グランドラインは不思議に満ち溢れている。
はじめは、医者の言葉を疑った。けれど、日に日に膨らむ腹と、時々感じるようになった胎動に、信じる以外の選択肢を奪われた。
「…どう、しようか」
ゆったりした服を着ているから、今のところは誰にもバレていない。けれど、バレるのは時間の問題だろう。男が妊娠なんて、受け入れられるはずもないのに。
大体、あの医者は診察はできるが、出産の面倒はみられないと言っていた。前例がないわけではないらしいので、どこか医療の発達した島に行けと言われた。
「…マルコ」
海を渡る恋人は定期的に俺の元を訪れるくせに、こんな時に限って中々現れてくれない。…むしろ良かったのか。決定的な拒絶を聞かなくて済むんだから。
とんっ。俺の不安に同調したのか、腹の中の小さな命が身じろいだのを感じる。そっと腹に手をあてれば、とんっ、と振動がまた一つ。
「おかあさんが、守ってやるから。大丈夫だよ」
堕ろすという選択をとらなかったのは、腹の中の子が愛しいからに他ならない。大丈夫だ、一人でだって育てていける。
それから、俺は生まれ育った島を離れて、遠くの島で子供を産んだ。目元がマルコによく似た女の子だった。
ーーーーー
「…やっと寝てくれた」
ようやく寝かしつけることに成功した娘は、くぅくぅ寝息を立てて眠っている。
はじめての育児は本当に大変で、世の母親は偉大だと痛感した。それでも、俺がこの子を守らなきゃいけないんだから、頑張るしかない。俺は『おかあさん』なんだから。
「…ちょっと、ねよう」
正直、もう限界。ソファに倒れ込むように横になれば、すぐさま眠気が襲ってきた。
ーーーーー
「……フィン」
誰かが、俺を呼んでる。頭をなでる手が心地よくて、目を開けることができない。まだ、眠っていたい。
あたたかい何かが額に触れる。酷く、懐かしい感覚が襲ってきて、そこでようやく違和感を感じた。
俺に触れているのは、一体誰だ。
「んんっ…」
重たい瞼を持ち上げて、開けた視界にうつったのは、俺の頭を膝に乗せて穏やかに笑う恋人の姿だった。
…なんで、マルコがここにいるんだ。
「なに変な顔してんだよい」
「…なんで、いるの」
俺は、確かにお前から逃げたはずなのに。…もしかして、探してくれたのだろうか。
起き上がりながら、問えばマルコはけろりとした顔で答えをくれた。
「お前に会いに来ただけだよい。連絡なしにいなくなるから、心配したんだからねい」
「……えーっと、マルコどこまで知ってる?」
「お前が孕んだのと、多分それが俺の子だってのは知ってるよい」
医者に頼んだら教えてくれた。なんて言ってるけど、絶対脅しただろ。あの医者は口が固いはずだもの。
でも、それを知ってるくせに、マルコは俺に会いに来たと言った。俺の悩みは杞憂に過ぎなかったのか、その口から拒絶の言葉はでてこない。
「なあ、フィン。俺と……」
マルコが何かを言いかけたけど、それに被せるように響いた泣き声。どうやら、可愛い娘が起きてしまったらしい。
ごめん、とマルコに詫びてから、ベビーベッドの娘を抱き上げる。ふにゃふにゃと泣き声をあげる小さな子は、どうやらお腹がすいているらしい。
「あー、よしよし。お腹すいたんだな、ごめんな」
軽くゆすってあやしながら、ソファに座ってシャツをめくって、授乳をしてやる。子供を産んだからなのか、母乳まで出るようになったこの体は本当に不思議だ。その影響で張ってしまった胸は、Aカップくらいはあると思う。
「なあ、マルコ。見て分かるだろうけど、俺は異常なんだよ」
「だからなんだってんだよい。んなこと言い出したら、俺だって不死鳥だ」
普通じゃねぇだろ、とマルコは肩をすくめた。…どうしよう、嬉しい。
「お前、本当俺のこと好きだよな」
「そんなもん、今に始まったことじゃねぇよい」
「……そう」
ほんのり熱くなった顔を隠すために、小さな赤子に目をうつす。どうやらお腹はいっぱいになったらしい。そんな娘を肩にのせて、軽く背中をたたいてやる。けぷ、と小さな音を確認してから抱きなおしてやれば、ご機嫌な笑顔が俺に向けられた。
「…可愛いもんだねい」
「ソフィアっていうんだ。目元がお前によく似てるよ」
そっと伸ばされたマルコの指を握りしめて、小さなソフィアはきゃふきゃふと上機嫌に笑う。
それを見るマルコはとても穏やかな、優しい顔をしていて、胸の奥がきゅんと締め付けられた。ダメだやっぱり俺、こいつが好きだ。それも、どうしようもなく。
そんな俺に気づいたのか、マルコは優しい顔をこちらに向けて口を開く。
「なぁフィン、俺と来ねぇか。責任くらいとらせてくれよい」
「……ちゃんと、この子ごと愛してくれるなら、いいよ」
俺がそう問いかければ、マルコはそこまで甲斐性なしじゃねぇよい、と笑ってくれた。
お前と俺と小さな娘
一緒ならとても幸せ
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