・女主はイゾウさんと同郷で恋人
なぁ、ソフィア。祝福を集める花嫁を、お前は綺麗だって言ったよな。だけどあの時、俺にはお前の方が綺麗に見えたんだ。
…幸せにしてやりたいなんて柄にもない事を思ったんだ。
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「エース、ソフィア見なかったか?」
「なんだよ、イゾウ。ソフィアならそこに……いねぇな」
エースの指差す先には、真っ白なシーツが揺れるばかりで、恋人の姿はない。
さっきまで居たんだけどな、と頭をかく末っ子に礼を言って、船室に戻る。どうせ、洗濯が終わったから食堂の手伝いに行ったんだろう。あいつは働き者だから。
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食堂に向かう途中。カランコロンと響く音に足を止める。この可愛らしい音はソフィアの下駄が奏でるものだ。どうやら、予想が外れたらしい。
足音の響く方へ向かえば、束ねた黒髪が揺れるのを見つけた。
「ソフィア」
「あら、イゾウさん。どうかしましたか?」
名前を呼べば、立ち止まってくるりと振り返る。紺色の着物をたすき掛けにして、腰には白の前掛け。その手には箒とハタキが握られていて、これから掃除をするのだと主張していた。
「倉庫の掃除かい?」
「はい。洗濯も食器洗いも終わったので」
今度は書庫の掃除です、と嫌がるそぶりもないソフィアは本当に働き者だ。俺の予想の上を行く。休んでくれねぇのが難点でもあるけれど。
「それで、何かご用でしたか?」
「ああ、少し話があってな。時間あるか?」
「えーっと…」
問いかけに、ソフィアは困ったように眉を下げた。仕事が終わってないからだろうな。他のクルーに見習わせたい真面目ぶりだ。
「掃除が終わってからでいいさ。そしたら、部屋においで」
困らせたくはないから妥協案を提示すれば、すぐに終わらせますね、とソフィアはにっこりと笑った。
全く、俺の恋人は可愛すぎていけない。
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包みをほどいて、真っ白なそれを膝に乗せる。肌触りの良い上等な生地がするりと手のひらを撫でた。
穢れを知らない無垢な白は、きっとソフィアに良く似合う。わざわざ故郷から取り寄せた甲斐があった。
「イゾウさん、お掃除終わりましたよ」
待たせちゃってごめんなさい、と背中側からソフィアの声。顔だけそちらに向ければ、前掛けをたたみながら歩み寄るソフィアと目が合った。
「おいで、ソフィア。見せたいものがある」
「あら、一体なんですか?」
そっと手招きをすれば、ソフィアはゆっくりと俺の隣に座る。好奇心でキラキラ輝くその目が、手元の真っ白なそれに向けられて、大きく見開かれた。
「綺麗…。白無垢なんて、どうしたんですか?」
「取り寄せたんだよ。お前に着てほしくてな」
ぱちり。戸惑うように大きな瞬きを一つしたソフィアの頬がみるみる赤く染まる。
言葉の意味を理解したんだろう、何かを堪えるように口元に手をあてて、瞳を潤ませて。あぁ、可愛い。
「なぁ、ソフィア。着てくれねぇかな。俺の為に」
幸せにしてやるからさ。微笑んでそう告げれば、ソフィアは泣きながら首を縦に振ってくれた。
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桜の咲く春島で、式を挙げよう。家族に祝福される中で、微笑むお前は綺麗だろう。嬉しさのあまり、泣き出してしまってもいいさ。それはそれで可愛いんだから。
無垢を君に
可愛い可愛い、愛しい人へ
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