短編 | ナノ


・女主はサッチの恋人
・甘すぎる(物理的に)



「サッチ、お砂糖ちょうだい」

「…入れすぎんなよ」

 分かってると苦笑して、ソフィアがすくい取ったのはスプーンに一杯だけ。湯気をたてる紅茶にそれを溶かして、ゆっくりと口をつける。ふうっと温まった息を吐き出せば、驚いたような顔をしたサッチと目が合った。

「一杯だけで大丈夫なのかよ」

「入れすぎんなって言ったのサッチじゃなかった?」

「いや、そうなんだけどさ」

 ソフィアの異常なまでの甘いもの好きを見てきた身としては、驚かずにはいられない。
 船に来たばかりの頃、ソフィアは気づけば飴玉を口にしているし、おやつには必ず甘い菓子を食べていた。紅茶には砂糖を四杯。寝る前にはハチミツたっぷりのホットミルクを。
 そのソフィアが、砂糖一杯で満足しているのだ。糖分の取りすぎが改善されたというのに、逆に心配になる。

「あんだけ言っても治らなかったのに、なんかあったか?」

「別になにも。もう必要ないから、いいの」

 くるくると無意味に紅茶をかき混ぜながら、その水面を見つめてソフィアは呟くようにいいのと言った。
 必要ないから、とどこか嬉しそうに。

「ねぇサッチ知ってる? 甘い物を極端に好むのは、愛情を求めているからなんだって」

「…そりゃ確かに必要ねぇな」

 少しだけ照れたように笑うソフィアに、自分まで恥ずかしくなったのかサッチは目を逸らして頬をかいた。

「それに、サッチの隣で飲む紅茶は甘いから」

「そりゃあ、サッチさんの愛情はどんな砂糖よりも甘いんだから、仕方ねぇよ」

 茶化すような言葉に、そうかもね、と微笑んでソフィアは甘い甘い紅茶を飲み干した。

スプーン一杯の愛情


 欲しかったのはただそれだけ


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