短編 | ナノ


 不死鳥マルコは私のものである。そう言うと少し語弊があるけれど、私の恋人なのだから、間違ってはいないはずだ。そう、彼は私のものなのである。
 そのはずなのに、この状況は何なんだろうか。

「ねぇうちに寄ってよ、いいでしょう?」

「いいえ、うちに!サービスしちゃう」

「ねぇ、お願い」

 同僚たちと買い物に出かけて、島をぐるりと回って、少し飲んでく? なんて話になって。そういうお店が集まる方へと足を向けたらこれだ。
露出の高いドレスを着て、派手な化粧をした綺麗な女たちが、可愛らしく媚びたような声を出す。それだけならいい。彼女たちも仕事だから仕方ないし、マルコがいい男なのも知ってる。
 だけど、腕を掴まれ、肌に触れられても、マルコはそれを引き剥がそうとはしていない。その上、別に不機嫌そうな顔をしているわけでもなく、平然としている。それが問題だ。
 どうせ、サッチたちに付き合ってこっちに来たんだろう。酒場に行くだけなら許したっていうのに。

「…ソフィア、怒っていいのよ」

「そうね、あれは浮気と見られてもおかしくないわ」

 一緒に買い物に来ていた同僚たちはそう言って私の肩を叩く。そうね、あれは浮気かもしれない。
 だからって、声をあげて怒ったりはしない。それじゃあ、みっともないから。

「…ちょっと、荷物頼んでいい?」

「いいけど、どうするのよソフィア」

 見せつけてやろうかと思って、と笑ってみれば、察してくれたのか同僚は私の荷物を預かって、先に船に戻ってるわ、と言ってくれた。本当にいい人たちだと思う。だから好き。
 かつり、とヒールを鳴らして歩み寄れば視線がこちらを向く。マルコは少しだけ驚いたような顔をした。

「ごめんなさいね、この人は私のものなの」

 マルコのシャツの襟首を捕まえて引き寄せて、その口に噛み付くようにキスを一つ。にっ、と唇のはしを釣り上げながら離れてみれば、マルコの口元には見事に私の口紅がうつっていた。所有印みたいでとっても素敵。

「…そういうわけだ。悪いねい」

「そういうことよ。諦めてね」

 見せつけるように腕を絡めてみれば、マルコは面白がるように笑う。あっさり戻ってきてくれたから許すことにして、その唇にうつった紅を拭ってあげた。

「浮気は許さないから」

「別に浮気じゃねぇよい」

 それなら、嫌な顔くらいしておいて、とあからさまに拗ねて見せれば、悪かった、と頬にキスをされる。それくらいじゃ誤魔化されてあげない。私は意外と嫉妬深いんだ。

「サッチ! 恋人様のご機嫌取りしなきゃならねぇらしいから、俺は行くよい」

「さっさっと船でも宿でも行っちまえってんだよ、バカップルが」

 成り行きを見ていたらしいサッチは、ため息をつきながら追い払うように手を振った。それならお言葉に甘えてマルコを独り占めしてやろう。
 だって、彼は私のものなのだから。

「それで、どっか行きてぇとこはあるかよい」

「どこでもいいわよ。満足させてくれるなら」

 ふふ、と誘うように笑ってみせれば、今度はマルコの方からキスをされた。それも、びっくりするくらい熱烈なやつを。
 結局、考えてることは同じで、だったら行くところは一つかも、なんてちょっと下品なことを思った。

骨の髄まで私のもの


あ、また口紅うつっちゃった




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