短編 | ナノ


 ふわふわのスポンジ、宝石みたいなフルーツ。甘い綿菓子、なめらかなクリーム、小さいチョコレート。たぶん、そういう甘くて優しいものを詰め込むと、こういう女になるんだろう。それが俺の恋人、ソフィアだ。
 ソフィアからはいつも甘い匂いがする。パティシエとして、日々、菓子作りに勤しんでいるから染み付いているらしい。
 今日も今日とて、ソフィアは鼻歌を歌いながらケーキのデコレーションに励んでいた。

「お日さま、お砂糖、おおきなイチゴ。お口でとろける生クリーム!」

「なんだ、その変な歌」

「今つくったの。おいしいケーキの歌」

 ふふ、とソフィアは楽しそうに笑う。ゆるく持ち上がる唇と、優しく細められる瞳。砂糖菓子みたいな甘くて可憐なその表情がたまらなく好きだ。胸がじわりと暖かくなる。
 まっさらだったスポンジにたっぷりのクリームを塗って、表面をなめらかに整える。そこに、しぼり袋で花のような、レースのようなデコレーションを作り上げていく。
 ソフィアの小さな手が魔法のようにスイーツを作るのを眺めていいるのが好きだ。だから、この特等席は俺のもの。

「うん、いい感じ」

 満足そうに一つ頷いたら、今度は銀のトレイに控えているイチゴの出番だ。慎重に位置を見ながら、真っ赤なイチゴをクリームの玉座に座らせる。綺麗な円が出来たのを確認して、ソフィアは満足そうに息をついた。仕上げに、残った隙間をクリームで飾れば完成だ。

「完璧! すごくいい出来!」

「そりゃ良かったな。姉さん達が喜ぶぜ」

 ソフィアのせいで太っちゃう、なんて言いながらナース達はソフィアのスイーツを楽しみにしているから。他にも、強面のくせに甘党のクルーが何人もいるから、そいつらもだ。

「サッチは喜んでくれないの?」

「喜んでるって。俺が一番楽しみにしてんだから」

「それならいいの。もうちょっと待っててね」

 綺麗に出来上がっだケーキにナイフを入れて、ピースに切り分ける。そのうち二つを皿に移して残りは保存庫へ。同じものがホールで幾つも入っているから、みんなに行き渡るだろう。

「洗い物は俺がするから、ソフィアは紅茶淹れて」

「いいよ、私がやるから。サッチは座ってて」

「やーだよ。だって早くケーキ食いたいし」

 片付けようと持っていたナイフを取り上げて、流しの前に立てば、ソフィアはもうサッチったら、と苦笑い。そういう顔も可愛くて好きだ。
 ソフィアが紅茶を用意している間に手早く洗い物を済ませる。まあ、ソフィアは片付けながら作業をするから、そんなに量はないんだけど。

「よし、終わりっと」

「こっちもオッケー。おやつにしようね」

 ソフィアの淹れた紅茶とケーキ。俺の大好物。別に甘いものはそんなに好きでもないが、ソフィアが作ったものは特別だ。何時だって、一番に口にするのは俺がいい。
 いただきます、と声をかけてフォークを手に取れば、召し上がれと優しい返事。大きく切り取った欠片を口にすれば、自然と美味いと感想がこぼれた。

「おいしい? よかった」

「ああ。スゲェ美味い。流石はソフィアだ」

「ふふ、ありがとう」

 ソフィアと過ごす午後3時。おやつ時は、今日も甘くて幸せな時間だ。


ショートケーキと午後3時




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