守護霊の呪文
・この
話のマルコ視点
ーーーーー
「それじゃあ、行ってきます」
「ああ、気をつけてな」
軽く手を振って、偵察に出かけるソフィアを見送る。エースと一緒だから心配はないだろう。
「穏やかな顔してんなぁマルコ」
「…なんの話だよい」
「バレてないとでも思ってんのかよ」
ニヤニヤ笑うサッチには隠し事なんて通用していなかったらしい。まあ、長い付き合いだから仕方ない。
「…心底惚れた女ってのは、見てるだけでいい気分になるもんらしいよい」
「珍しいな、マルコがそこまで惚れ込むの」
サッチの言う通り、我ながららしくないとは思う。どちらかといえば淡白な方だという自覚もある。
それでも、惚れてしまったのだ。恋はいつでもハリケーンとはよく言ったものだと思う。
「ソフィアが特別なんだよい。惚れちまったもんはしょうがねぇ」
「お熱いねぇ。ま、頑張れよ」
いつも通りの調子で肩を叩いた悪友は、相変わらず楽しそうにニヤニヤ笑っていた。…楽しんでやがるな、こいつ。
なんとなく腹が立ったので、軽く蹴りを入れたら、痛ぇなこの野郎、と怒られた。うるせぇよい。
ーーーーー
「マルコ、話があるの。今、平気?」
偵察を終えて部屋を訪ねてきたソフィアに、自然と頬が緩む。けれど、ソフィアはどうしてか少し俯いていた。いつもまっすぐにこちらを見てくる赤い瞳が、長い睫毛に隠れてしまっている。
「どうかしたのかよい」
話がある、なんてあらたまってどうしたのだろうか。どうした、と続きを促せばソフィアは意を決したように顔をあげた。
「…とりあえず見てて」
杖を片手に呪文を一つ。ゆっくりと振られた杖の先から銀色の光が飛び出して、大きな鳥を形作った。ばさり、と翼をはためかせすぐに姿を消した鳥。おれの記憶が確かなら、前にソフィアがSOSを伝えるために寄越した蛇と同じ魔法だろう。
「へぇ、蛇だけじゃなくて鳥も作れるのかよい」
「…守護霊っていうんだけど、術者の精神に深く関わっていて、大きな感情の揺れで稀に姿を変えるの」
だから、姿が蛇から鳥に変わったのだ、とソフィアはなぜか落ち着かない様子で説明してくれた。
大きな感情の揺れ。ソフィアの精神を強く揺さぶるような出来事なんて、あっただろうか。
「…なんかあったのか?」
「別に、なにも。…ただ、マルコに似てるなって、エースが」
あとは察して、とソフィアは口を噤んでしまった。ああ、なるほど。それでさっきから目を合わせようとしなかったのか。
精神に深く関わる魔法で、おれの姿を写し取るなんて、答えは一つだろう。
「ソフィア。お前、おれが好きなのかよい」
「マルコが、私を好きなんでしょ」
ふい、とそっぽを向いてしまったソフィアが可愛いらしくて思わず笑ってしまう。耳までほんのりと赤く染めて、本当に可愛いやつ。
手を引いて抱き寄せても拒まれはしない。さらり、と流れた長い髪が肌をくすぐった。
「ああ、そうだねい。おれが、お前を好きなんだ」
「…そう」
そっと頬に手を添えて上を向かせれば、綺麗な瞳が揺れていた。ああ好きだ。つのる想いに任せて唇を重ねれば、ソフィアは恥ずかしそうにしながらも身を委ねてくれた。
「…、わたし、あなたが好きよ」
しばらく間を置いてから意を決したようによこされた答えに、もう一度キスがしたくなったのは仕方のないことだ。
prev /
next