長編 | ナノ


  桃色の絆


 振り下ろされた剣が、がしゃりと音を立てて硬い枷を破壊する。ようやく自由になった両手をぐるりと回しながら確認すれば、無理やり動かしていたせいか、こすれたように傷が出来ていた。

「うわっ、早くナースにみてもらった方がよさそうだぜ」

「みたいだねい。ソフィア、こっちだ」

 見事に枷を破壊してくれたサッチに礼を言ってから、マルコの背を追いかける。
 医務室に入れば、ナース達にいきなり礼を言われた。家族を守ってくれてありがとう、と。本当にお互いを大事にしているらしい。

「とりあえず、マルコ隊長は外に出ててくださいね」

「服を脱ぐんですから、男子禁制!」

「…そうかい。オヤジのとこに行ってくるから、終わったら呼んでくれよい」

 半ば諦めたようなため息に、この船の力関係を見た気がする。どこの世界でも女性に逆らっちゃいけないのは共通らしい。
 宣言通り、服まで脱がされ治療をされた。首と手首の傷には包帯。血と埃で汚れた顔は綺麗に拭って、腫れの残る頬には湿布。蹴られた脇腹には、痣が残っていたけれど大事には至らなかったらしい。少し安心した。

「ソフィア、貴女のおかげであの子たちは怪我も軽くてすんだわ。本当にありがとう」

「どういたしまして。そういえば、彼女たちは? 姿が見えないけど」

「オヤジ様のところよ。心配かけたんだから、怒られてるかも」

 くすくす笑うナース達の間には確かに絆みたいなものがあって、胸にもやもやが溜まる。
 赤毛の一家を見ている時と同じだ。家族という確かな絆。私が手に入れることができなかった暖かさ。それが羨ましいだけの、濁った感情が胸に広がって少しだけ苦しくなった。

色の絆


 それは見えないけれど、確かな家族の絆





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