続いたの | ナノ


  クリスマスのまりんちゃん!


「お邪魔しまーす、まりんです♡」

 こんにちは! と元気よく挨拶をして訓練場や執務室をたずねる。それが今日のお仕事だ。
 もこもこの白いファーがたくさんついた深紅のワンピースに、同じ色の三角帽子。厚手のタイツと真っ赤なブーツで防寒もばっちり。大きな袋を背負えば、かわいいアイドルサンタの出来上がり。
 もうすぐクリスマスだから、ということで決まったお仕事は、海兵さんたちにクリスマスプレゼントをお届けすること。労いとか、そういう意味合いが強いんだと思う。

「おやぁ、今日はサンタさんかい」

「はい! まりんサンタです♡プレゼントをお届けに参りました」

 いろんなところを回りまくって、ラストは大将さんたちの執務室。まずは黄猿さんのところから。
 袋の中を探って、残り少なくなったプレゼントを取り出す。綺麗に包まれたお菓子の詰め合わせを、どうぞ♡と副官さんたちに手渡せば嬉しそうに受け取ってくれた。リボンの間には手書きのクリスマスカードが挟まっている。何枚も書いたせいでちょっと手が痛いけど、ファンサービスのためだから仕方ない。

「はい、黄猿さんの分です♡」

「嬉しいねぇ〜。ありがとよォ」

 黄猿さんはいつも通りのニコニコ笑顔でプレゼントを受け取ってくれた。まりんちゃんは働き者だねぇ〜、と褒められたので、えへへ、と照れたふりしてはにかんでおく。ほんと、私って働き者。

「それにしても、まりんちゃんは赤も似合うんだねぇ〜」

「似合ってますか? いつもは白い服が多いのでちょっと心配だったんですけど」

「サカズキが喜びそうじゃねぇか」

 なんでサカズキさん? と思ったけど、黄猿さんは変わらずニコニコ笑うだけで答えてくれる気は無さそうだ。この人、優しいけどちょっと意地悪。
 まぁ、分からないならそれでいい。それより、次に行かなきゃ。まだプレゼントは残ってるんだから。

「それじゃあ、まりんサンタはみんなにプレゼント配りに行ってきますね♡」

 失礼しました、と部屋を出る。黄猿さんが手を振ってくれたから振り返しておいた。

ーーーー

 青雉さんの執務室に青雉さんがいなかった。サボり癖のある人だから、いつも通りらしい。副官さんは泣いてた。
 副官さんたちがかわいそうなので、プレゼントを渡すついでに、お仕事がんばる人って素敵ですよ♡とエールを送っておいた。頑張る!!とやる気が出たみたいだから良かった。

「あ! 青雉さんみぃーつけた!」

「んー…、なんだまりんちゃんか」

 中庭でお昼寝って、サボり魔はほんとに堂々としてる。ちょっとお行儀が悪いけど、廊下の窓を乗り越えて中庭に出て、青雉さんに近づけばどうしたの? と首をかしげられた。どうしたの? じゃないと思う。

「ちゃんとお仕事しなきゃダメですよ!」

「あらら。怒られちゃった」

 腰に手を当てて、怒ってるのポーズ。まあそう怒りなさんな、とサボり魔はのんびりしてる。なんなら二度寝を決め込もうとしてる。それはいけない。

「まりん怒ってるんですよ。悪い子にはプレゼントあげません」

「今日はサンタさんなのね。あー…、じゃあ、ちゃんとお仕事しようかな」

 その言葉に嘘はないみたいで、青雉さんはようやくアイマスクを額に押し上げて体を起こした。

「おじさんちゃんとお仕事するから、いい子でしょう?」

「そうですね。いい子です」

 背負った袋の中からプレゼントを出して渡せば、青雉さんは黄猿さんと同じように嬉しそうに受け取ってくれた。ほんとにまりんちゃんって大事にされてるなぁ、と思う。可愛い娘にプレゼントをもらったお父さんみたいだ。

「それにしても、まりんちゃん。赤なんか着てるからサカズキかと思ってびっくりした」

「サカズキさん?」

 またサカズキさんの名前が出てきた。そういえばこの衣装はサカズキさんのスーツと同じ深い赤色をしている。あ、それで黄猿さんはサカズキが喜びそう、なんて言ってたのか。お揃いくらいで喜ぶ人じゃないと思うけど。

「そういえばこれ、サカズキさんの色ですね。嬉しいなぁ♡」

「まりんちゃんはほんと、サカズキのこと好きだね」

 珍しい、なんて言われたけどサカズキさんはいい人だからとても好きだ。最初はちょっと揉めたけど、それも今となってはいい思い出。
 それに、サカズキさんの前ではあまりアイドルらしくしていなくてもいいからちょっと楽なのもある。まあ、それは言うつもりはないけれど。まりんちゃんは完全無欠に可愛くないといけないんだから。

ーーーーー

 青雉さんがサボらないように執務室まで送り届けて(副官さんにまた泣かれた)、今度はサカズキさんの執務室に向かう。

「サカズキさん、まりんです♡プレゼントをお届けに参りました!」

「…なんじゃ、うかれおって」

 ぶっきらぼうな物言いが別に怒っているわけじゃないのは知っている。だから、副官さんたちがそわそわしてる中でも全力笑顔を崩さずにいられるのだ。

「メリークリスマスですよ! みなさんお仕事頑張ってくださいね♡」

 副官さんたちにプレゼントを手渡して、最後の一つはサカズキさんの分。実はちょっと特別なものだ。日頃の感謝を込めた個人的な贈り物。使ってもらえるかは分からないけど、上等な万年筆を選んだつもり。

「サカズキさんのはちょっと特別ですよ

 副官さんたちもいるから、今日はまりんちゃんモードだけど、日頃の感謝を込めてです、と赤い包みを手渡せば、サカズキさんは少しだけ笑ってそれを受け取ってくれた。

「あ、そういえばこれ、サカズキさんの色だってみなさんが」

 お揃いですね、とワンピースの裾をちょっとつまんでポーズ。アイドルらしく可愛らしいポーズなら何通りだってレパートリーがあるのだ。

「…まあ、悪かぁない」

 どうです? と感想を求めればサカズキさんは、そう言ってくれた。あ、これ喜んでくれてるのかな。もしかして黄猿さんが当たり?だとしたらなんだか嬉しい。

「似合っとるぞ」

「わぁ、褒められた! 嬉しいなぁ♡」

 サカズキさんが珍しく素直に褒めてくれたから、サンタさんも悪くない。クリスマスってとってもいい日だ。

クリスマスのまりんちゃん!


 この間の礼だ、と後日サカズキさんが髪飾りをくれた。どんな顔して、どこで選んだのか、ちょっと気になる…。


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