恋する世界は美しい
・この
ネタから
・マギの紅玉成り代わり
・ネタの中だと、現代→マギ→OPっぽいけど、変更してマギ→OP
・つまり、常識とか考え方はマギの世界のもの
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「……かわいいんだよなぁ」
見張り台から甲板を見下ろしたエースは、はあ、と息を吐き出した。視線の先には揺れる赤毛。甲板をよく動くそれは、働き者のソフィアのものだ。
元はお姫様で、掃除の仕方も洗濯の仕方さえも知らなかったくせに、ソフィアはよく働く。だって役に立ちたいもの、なんて健気なことを言いながら。
ある日突然、空から落ちてきた彼女を受け止めたのはエースだった。どうしてか、傷だらけだった姿に胸が痛くなったのを覚えている。今思えば、その時点で惚れていたのかもしれない。そうでなければ、その後、様子を気にかけたり、話を聞いてやったりはしなかったはずだ。
エースはソフィアを好いている。けれど、今はそれを伝えることができない。愛や恋から離れた場所にいたらしい彼女は、与えられる家族からの愛を受け止めるだけで精一杯で、むしろ戸惑いすらみせるのだから。
「またお前はソフィア眺めてんのかい」
「べ、べつに、そんなんじゃねぇし!」
不意に見張り台に登ってきたマルコに、にやにやと笑いながら言われれば、エースは顔を赤くしてソフィアから視線を外した。
エースはソフィアを好いている。本人はその思いを伝えるつもりはないし、隠しているつもりらしいが、周りにはバレバレだ。あまりにも分かりやすいそれに気づいていないのは当の本人、ソフィアくらいだろう。
「まあ、そういうことにしといてやるよい。ほら、ソフィアの手伝いしてやれ」
「…いや、でも見張り」
「ほとんどしてなかったじゃねぇか。代わってやるからさっさと行けよい」
おにーちゃんの気遣いを無駄にすんな、と茶化すように言われてしまえばエースは黙り込んで、ありがとう、と綺麗に頭を下げる。相変わらず変なところで礼儀のしっかりした男だ、とさっさと見張り台を降りる末っ子を見送りながらマルコは苦笑した。
「ソフィア、手伝う!」
「あら、エース。見張りはいいの?」
「あー、えっと、なんかマルコが見張りしたかったらしくて、代わってくれた」
だからさ、とエースはソフィアが抱えたシーツの山を半分以上奪い取る。持って行き過ぎよ、とソフィアがそれを取り返そうとするが、ひょいと避けて先を歩き出した。
「どこ運ぶんだ?」
「もう!」
小走りでエースに追いついて、倉庫に運ぶの、と言ったソフィアは少しだけ頬を膨らませて拗ねています、とアピールしてみせる。けれど、むしろ可愛らしく見えるだけで、効果はない。
「エースは私を甘やかしすぎよ」
「いいんだよ、ソフィア頑張ってるんだから」
たまには手伝わせてくれよ、というその言葉に納得したのか、諦めたのか、ソフィアはありがとう、と笑った。
その可愛らしい微笑みに、エースは思わず顔を逸らす。その頬はほんのり赤く染まっていた。
「エース、どうしたの?」
「なんでもねぇよ」
「そう?」
言いながらエースは、誤魔化すように片手でテンガロンハットを少しだけ引き下げる。ソフィアは不思議そうにしながらも、それならいいけれど、と一つ頷いた。
その仕草さえも可愛らしく見えて、エースはぐっ、とこみ上げるなにかを飲み込んだ。まだまだ若いエースは意外と純情なのである。
「これ運んだら、休憩にしようと思うの。エースも一緒にどう?」
「おう、いいぜ。そういやサッチがおやつはケーキにするって言ってた」
「ケーキ、やった!」
嬉しい、とはしゃぐソフィアにつられてエースもにっと笑う。
楽しげな、仲睦まじげなその様子を、家族達が優しい眼差しで見守っていたが、二人は気づいていなかった。
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