続いたの | ナノ


  紅を添える


・戦争前
・そもそもサッチは前から主人公が気になってたらしい

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「サッチ、頼みがあるんだが」

「ん? どうしたソフィア」

「前の戦闘で短刀が折れてしまったから、新しいのが欲しいんだ。そういうのはサッチに聞けと言われた」

 誰に?と問えばビスタに、と返された。あの野郎、余計な気遣いやがって。剣を使う相手を選んで相談を持ちかけたのだろう。最初にビスタに聞いたソフィアは正しい。だってそういうのはあいつの方が詳しいから。
 そのくせ、俺に聞けなんて言ったのは、俺がソフィアを気に入っているのを知っているからだろう。

「じゃあ、次の島でなんか探してやるよ」

「ああ、助かる」

 ほんの少し柔く微笑んだソフィアを気に入っている理由なんて分からない。けれど、ソフィアと次の島で出かける約束を取り付けられて、なんだか嬉しくなった。

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「いいものが手に入った。ありがとう、サッチ」

「おう、役に立ったならよかった」

 上等な短刀を手に入れたからか、ソフィアはとても機嫌がいい。賑やかな店の立ち並ぶ中を二人で歩く。あちこちで客引きが大きな声で道行く人を集めている。活気溢れる街のこういう雰囲気は嫌いじゃない。

「あ、お嬢さんもどうぞ!」

「え? あ、ああ」

 最後の一つを配ってしまいたかったんだろう、客引きの男に無理矢理小さな箱を渡されてソフィアは戸惑っている。まあ、お嬢さんなんて呼ばれるのに慣れてないってのも理由だろう。
 なんだこれ、と蓋を取ると中には色鮮やかな赤。ああ、口紅の試供品か。

「…なんだこれ?」

「口紅。試しに使ってみてくれって宣伝だろうな。塗ってみればいいんじゃねぇの」

「…使い方がイマイチ分からん」

 化粧なんてしたことないし、と軽く肩を竦めたソフィアは本当に戦うことだけ考えて生きてきたんだろう。そういえば、女である前に剣士だ、と前に言っていた。

「じゃあ、塗ってやるよ」

「え、できるのか?」

「まあ、何回か見てりゃ覚えるさ。ほらこっち向け」

 紅を塗るくらいなら俺にだってできる。指先で少し紅をすくい取って、片手でソフィアの顎をすくって上を向かせと、戸惑ったように目を閉じられた。無防備なその表情に少しどきりとしたが、平静を装ってその柔らかな唇をなぞる。

「ほら、やっぱり似合う」

 形のいい唇に真っ赤な色を乗せたソフィアはいつもより魅力的に見える。けれど、当の本人は店先のガラスで自分の顔を確認して恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「…やっぱり、柄じゃない」

「あ、擦ると広がるからやめとけ。落とすなら姉さんたちに頼んだ方がいい」

 擦って落とそうとするから慌てて止める。化粧ってのは普通に洗っても落ちるものじゃない。そういうのはナースの姉さんたちの方がよっぽど詳しいから頼んだ方がいいだろう。
 諦めたのか、大人しく小箱をポケットにしまって、ソフィアは足早に歩き出す。慣れない紅を早く落としたいのだろう。ちょっと面白い。

「たまには飾ってみてもいいんじゃねぇの? 似合うし」

「……、たまに、な」

 サッチが言うなら、と目を逸らしながらも答えてくれたソフィアはやっぱり可愛かった。


紅を添える



 船に戻ってから、姉さんたちに化粧の落とし方を聞きに行ったソフィアが逆に飾り立てられて逃げ出してきたのは、また別の話。


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