温めてくれるもの (宮城リョータ)


冷たい空気というものは、下の方に集まるということをどこかで聞いたことがある。ということは、チビなヤツはデケェヤツよりも冷たい空気に当たってばっかだから損なのかもしれない。

──そう、例えばオレのようなヤツとか。


「……うー、さみぃ」

学校生活をしていたらどうしてもしないわけにはいかねぇ、掃除。好きな人なんてそうそういないだろうそれは、冬になると地獄のような時間になる。
冷たい水で雑巾を絞って、その辺を拭いて、また絞って。そんでもって掃除が終わったら手もしっかり洗いたくなるモンだから、また冷たい水で手を洗って。

そんなこんなで冷たい水に何度もさらされた手は、冷えきった廊下の空気でまた更に冷える。そうなると中々温まらないから厄介だ。

でも今日のオレはイイもん持ってんだよなと1人で笑いながらズボンの右ポケットに手を突っ込む。
そこにはこの地獄の掃除中でも変わらず温もりを放ってくれていたカイロが入っているのだ。

「やっぱ持ってきて正解だったな」

ポケットからカイロを取り出すと両手で包み込む。冷えた指先には熱すぎるくらいだが、それもまた心地よい気もする。

そうして得意げになるとシャカシャカとカイロを振りながら廊下を突き進む。目指すは教室、自分の席。みんなが寒そうに方をすくめている廊下でもオレにはこのカイロがあるから寒くはねーんだ。

すると反対側からこっちに向かって歩いてくる人のことがふと目についた。なまえちゃんだ。

「あ、宮城くん!」

オレが先に見つけてもなまえちゃんがオレの名前を呼ぶ。ぱっと明るくなった笑顔と、指先が真っ赤になった華奢な手をこっちに向けながら。

「……なまえちゃん、手が真っ赤だけど?」

少し視線を落とすと、じっと彼女の手に視線をやる。すると彼女は少し恥ずかしそうにしながら笑った。

「掃除してたら冷えちゃって」
「あぁ、冬の掃除は地獄だもんね」
「確かに地獄かも」

ふふっと笑った彼女の頬が赤く染まる。指先と同じ赤で色づいて可愛い。

「……あっ!そーだ!これあげる」
「カイロ?でも宮城くんが寒くならない?」
「オレのはこっちのポケットにまだ入ってっから」

ズボンの左ポケットを叩いてニッと笑えば、彼女は嬉しそうに両手でカイロを握りしめて「ありがとう」と目を細めて笑った。オレはそんな彼女に「どういたしまして」と手を振って別れた。


両手をポケットに突っ込むと、目指すは教室、自分の席。もうポケットにはカイロの温もりは残ってないけれど、さっきの彼女の笑顔でオレの心も温まる。
そうしてオレのあげたカイロで、オレより小さい彼女の寒さが少しでも和らんでくれるのならば、それだけでオレも嬉しいし心も体もポカポカ温まるのです。だってキミはオレにとってカイロみたいなものだから。

なんてことを思ってみたらやっぱり心も体も、それからついでに顔までもがポカポカしているのがわかった。


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