1.すぐに見つかる
我が校の選手たちの入場行進を見送ったら、ようやく他の学校をじっくりと見られる余裕が出来た。
……あそこは確か最近、力をつけてきている学校。あっちは昔からずっと強い学校って聞いた。あ、そっちは部員が少ないな。
170校という数だから強豪私立に古豪公立、新設校に今年で閉校となるから出場は最後となる学校。そりゃもちろん色々な学校があるわけで。この中を勝ち上がっていかなければ、甲子園には出場できないし夏だって続かない。
改めてものすごい世界に足を踏み入れたものだとさえ思う。ふうっと息を吐いたら、隣に座る先輩にトントンと肩を叩かれた。
「ねぇ、どこだっけ?」
『何がですか?』
「ほらなまえが野球部でマネジ始めたきっかけになった子がいる学校」
『あぁ、栄口くん……なら…………』
名前を言ってしまってから慌てて口を塞ぐ。だけど先輩の耳にはバッチリ届いていたようで、へ〜と先輩は口角を上げると肘でグイグイと押してきた。
「栄口くんっていうんだ〜!」
『うっ……はい』
声が弾む先輩と縮こまっていく私。きっとどこからどう見ても先輩にイジられてるようにしか見えないのだろう。……まあ、その通りなんだけど。
「それで?その栄口くんはどこの学校だっけ?」
『西浦、です』
「ポジションは?」
『内野で確かセカンド』
「かっこいい?」
『かっこい……って先輩!?何言わせるんですか!?』
先輩の質問に、もうなるようになれと開き直って答えていたのが仇となる。慌てる私をよそに先輩は、だって可愛い後輩の気になる男の子ことが気になるんだもんと笑った。
先輩の笑顔に同じ女である私が目を奪われて何も言えずにいたら、流れてきたアナウンスに勝手に耳が反応した。
──西浦高校
ばっと前を向けば、西浦高校がちょうど入場してきたところだった。掛け声と共に入場してきた中には、彼もいた。
……いた。前から3番目の一番右。
中学の卒業式で最後に見た時とほとんど変わっていない彼は新しい仲間と一緒に歩いていた。その背中を見送ると再び先輩に声を掛けられた。
「西浦だったね」
『……はい』
「10人しかいなかった」
『え、はい。確かに』
「確かにってことは栄口くんがどこにいるか分かったんだ?それで、ずっと見てた、と」
ふむふむと何やら勝手に推理をしている先輩は私の方へと振り向くと目を細めた。
「まあ何はともあれ、なまえの高校野球生活が楽しくなるといいね」
『まだ何もないですけどね』
「まあまあこれからきっと何かあるって」
顔を覗き込んできた先輩につられて笑顔になる。
高野連の会長の挨拶を聞いている間にふと目を瞑れば、さっきの少し照れながら口を開けて入場行進をしていた栄口くんの姿が浮かんできた。
――――――
すぐに見つかる
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